第40話 リューミナ王国の王都

 コウ達はいつもと違う、王都に向かう街道の方にある西門へと向かう。西門は東門と違って商人の割合が多いようだ。ただ、手続き自体は同じなので、必要事項を記入し、冒険者カードを見せて街を出る事が出来る。ただ、門兵が怪訝そうな顔と、ユキ達に見惚れているような顔を、交互に繰り返す不思議な表情を見せていたが……。


 流石に王都への街道である。人を見ないということがないぐらい大勢の人が歩いている。治安が良いのか、余り護衛の冒険者を雇っている商人は見かけない。

 正午ぐらいまで歩くと、街道のすぐ横に向こう岸の見えない広大な湖と、正面にまだ小さいが王都が見える。湖には漁をしてるのだろう船が何隻か浮かんでいた。風景も良いので街道から少し離れた場所で昼食を取ることにする。他にも何組か昼食を取っている人たちが見える。目の前を兵隊らしき一団が馬に乗って過ぎ去っていく。何人かはこちらを見て、ギョッとしていたのが分かる。まあ、そういう反応にはもう慣れてしまったが。馬に乗っている一団を見て、そろそろ馬を買ってもいいかもしれないと考える。

 昼飯はこの間仕入れた分厚いオーク肉のサンドイッチに、果実水だ。少し辛みのあるソースが肉によく合う。しかし、オークはどう見ても筋肉質なのに、肉が猪より柔らかいのはなぜなんだろう?と他愛のないことを考えつつ昼食を終える。


 何事もなく、夕暮れまではまだ余裕がある時間に、王都の近くまで来ることができた。王都はローレア川と呼ばれる大河が湖に流れ込む位置にあった。恐らく三角州の上に立っているのだろうが、城壁が水面からそびえたっており、まるで断崖絶壁の岩の上に都市があるように見える。更に王都の周りには幾つかの高い塔が立っており、たとえ城壁に近づいたとしても、城壁と塔から攻撃できるようになっている。こちらからは、一度ローレア川の橋を渡った後、再度王都への橋を渡らなければならない。橋をよく見ると、いざという時は、幾つかの石を壊せば全体が壊れるように出来ている。対岸には砦もある。確かに多少大軍で囲んだところで落とせるような都市ではなかった。自分ならばどうやって落とすか、コウがそう考えていると、


「コウ。仕事をしている時の顔をされてますよ」


 そうユキが軽く注意をする。言い出さないと日が暮れるまで考えかねない。


「すまない、職業病だな」


 コウはそう言って軽く頭を振り、考えていたことを振り払うと、再び王都に向かって歩き始めた。


 王都の城門の前にはには幾つかの列ができていた。住人、商人、旅人、冒険者というように分かれているようだ。1回だけ立派な馬車に乗った貴族らしき一団が通ったが、そちらは列に並ぶことはなく、馬車の御者が何かの紋章のようなものを見せると、そのまま王都へと入っていく。よく見ると冒険者にも2種類あり、すんなりとお金を払って入っていくパーティもあれば、詳しく書類を書いているパーティもいる。

 コウ達の番になると、先ず冒険者カードを見せるように言われる。コウ達は素直に見せると、手続きの少ない方に行くように言われる。なるほど、Cランクの冒険者カードは伊達ではないらしい。尤も、門番の自分たちに対する、怪しげなものを見るような目までは防げなかったが。

 王都へ入る税金は基本10銅貨。但し、収納魔法及びそれに類するマジックアイテムを持ってる場合は1銀貨となる。もし嘘を申告した場合は罰金10金貨に、犯罪奴隷として1年間の労務が科せられる。結構な重罪だ。勿論正直に収納魔法持ちであることを申告し、4人分4銀貨を払う。確かにこれならば、なかなか冒険者は活動しにくいだろう。


 王都に入ると門から広い道路が中央まで続いており、そこに立派な教会が建っている。そしてその奥には、まるで教会に覆い被さるように見える大きさの城が建っていた。メイン通りの両側に並ぶ建物も高く5階建てなどは低い方で、中には10階建てのものもある。基本的に1階が店舗、2階以上が事務所や倉庫、住居になっているようだ。建物にはこの国の国旗が掲げてあるところが多い。

 王都に入った時は夕暮れが近いこともあり、かなり賑やかだった。何はともあれ宿屋にまず向かう。宿屋は事前に情報を仕入れておいた“静寂の泉亭”というところだ。紹介無しで泊まれる宿の中では、最高級に位置する宿だ。これ以上は貴族、若しくは有力者の紹介が無いと泊まれない。

 宿の門を開ける。


「いらっしゃいませ、ようこそ“静寂の泉亭”へ、えっ」


 受付嬢が自分たちの恰好を見て、固まってしまった。そう言えばジクスでは2日目に宿に泊まったので、ある程度うわさが広まっていたかもしれないが、王都はいきなりなので驚かせてしまったようだ。と言っても、武器は亜空間の中にしまっているが、マリーの鎧はどうしようもないので仕方がない。少しの間固まってた受付嬢だったが、直ぐに笑顔に戻り、少し頬を赤らめながら、コウ達に話しかける。


「本日はどういったお部屋をお探しですか」


 受付嬢の言葉に、ジクスの宿と同じ条件を言う。ここでも条件に当てはまるのは最上階の部屋だけで、値段は朝食付きで20銀貨だった。やはり王都となると物価が高い。とりあえず5泊分1金貨を払う。クレジットに換算すると100万クレジットである。だんだん自分も金銭感覚が麻痺してきている。


 部屋に入り着替えをする、と言っても、いつものように、手首のリングを操作するだけだが……。

 流石は湖の中にある都市、外に出て、宿の付近をちょっと見て回っただけでも、魚料理の店が数軒ある。どの店もそれなりに繁盛していた。


「ユキ、今日はお前が好きな店に行こう」


 魚料理を楽しみにしていたユキが嬉しがっている。むろん他人には無表情にしか見えないだろうが、長年の付き合いであるコウには十分に伝わっていた。


「それでは、お言葉に甘えて、ここから3つ先の十字路を右に曲がって5軒目にある“銀の鱗亭”に行きましょう」


 案の定というか、なんというか、事前に調べていたようである。どうせほかの店に行こうとしても、その店に誘導していたに違いない。


「こっそり、調べていたな」


 少し咎めるような口調でコウが言う。


「ルールは破るためにあるのです。これはコウから教わったことです」


 ユキは涼しい顔で答える。


「じゃあ、ユキのお手並み拝見ってとこだな」


 サラが、楽し気に言う。


「じゃあ、明日はわたくしにまかせてくださいまし」


 とマリーも続ける。良いけど、お酒優先で選ぶんじゃないだろうな、と一抹の不安を覚える。どうもマリーは段々酒飲みになってきてる気がしてならない。この間もワインを樽ごと買っていたし……。


 ジクスとは違った雰囲気を楽しみながら“銀の鱗亭”へと向かっていく。店はカウンターがなくテーブル席が20ほどあるこの辺りでも大きな方の店だった。満席だったが、店に入った時に、丁度4人用のテーブルが空く。ドレスコードまではないが、客層は裕福そうな人が多かった。


「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」


 ウェイトレスが落ち着いた声で席まで案内する。案内されるまでにテーブルは片付けられていた。店員の教育も行き届いているようだ。


「本日は新鮮なラーグ貝、トリアステ、テキア、キゼットが入荷していまして、すべてが味わえるこのコース料理がお勧めでございます」


 そう言ってウェイトレスは本日おすすめのコース料理を指さす。値段は2銀貨、流石王都だけあって、それなりの値段である。


「自分はこれが良いと思うが、みんなは?」


「私も同じです」


「あたいも」


「わたくしもですわ」


全員の意見が一緒だったので4つ頼むことにする。するとウェイトレスがちょっと困った顔で、


「こちらは、4人から5名様用のコースなのですが……」


 と説明してくれる。安い。それはそれで不安になるが、まあともかくユキが自信ありげだったのでそのコースを頼む。


 最初に出てきたラーグ貝のワイン蒸しは、ラーグ貝自体が以前“緑の海猫亭”で食べたものの2倍以上の大きさがある。次に出てきたのはトリアステの刺身というもので50㎝程の魚の生の切り身である。独特のソースに付けて食べる、3番目に出てテキアの香草焼きは1m以上はある魚の丸焼きだ、臭みもなくさっぱりとした白身に塩が利いていておいしい。最後のキゼットというのは10㎝程の魚で、何かの野菜と一緒に油で揚げてあった。1人につき5匹が皿の中に入っている。骨ごと食べられて香ばしく、これも美味しかった。ふと横を見ると、ユキがどうだと言わんばかりの勝ち誇った表情を見せていた。

 まあ、今日は素直に負けを認めるとしよう。美味しかったし。結局値段は酒代を入れても銀貨4枚にもならなかった。ちなみに酒代の半分はマリーが飲んだものである。まあ、それで特に困ったことがおきるわけではないのだが、なんとなく飲んだ分は働けよ、と思うコウであった。


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