第35話 盗賊退治?
コウ達は男たちが周りを囲むはるか以前から、男たちの動きに気付いていた。たんに移動しているだけだったら見逃そうと思ってたが、好都合なことに襲ってくる気配を見せた。そう、ここで襲われることは、コウ達にとって好都合なことだった。
(しかし、それにしてもこの世界は、のんびりしてるねぇ)
元の世界では、同じ状況なら武器の射程内に入ったら即攻撃である。悠長に目の前に現れるなど考えられない。その意味では、自分たちと相手、どっちが野蛮なのか悩むところである。
そういった、たあいもない考えを消すと、コウは気を取り直し、
「取引がしたい」
と、お頭と呼ばれた男に向かって言う。
「お前は馬鹿か? この状況でどんな取引ができる。お前たちにできるのは、抵抗して痛い目を見るか、大人しく連れていかれるかを選べるだけだ。何、お前達の器量だ。今より良いもんが食えて、綺麗な服も着れるだろうぜ。悪いこたあ言わねえよ。大人しくしておけ」
頭の男が馬鹿にしたように言う。
「1対1の勝負がしたい。私が負けた場合は大人しくそちらの言うことを聞く、勝った場合でも私の他の3人はそちらの相手をさせよう」
そうコウが提案すると、盗賊たちはゲラゲラと笑う。
「可哀想に、嬢ちゃんたちとんでもないくず男についてきたな」
「これだから顔だけの奴は」
ひとしきり盗賊たちが笑った後、頭が答える。
「良いだろう。ただし、お前の担いでる飛び道具でなく、拳でだ」
コウは頷くと、コンパウンドボウを亜空間へとしまう。
(収納魔法持ち……。こりゃあ、こいつだけで金貨50枚は行くかもな)
盗賊の頭は舌をなめる。
「そういや、言ってなかったが、俺は元Cランクの冒険者だ。ちょっとした喧嘩で、相手を殴り殺しちまって取り消されたがな。だが安心しな、ちゃんと手加減してやるからよ」
男はそう言って、コウに近付き、いきなりみぞおちへと拳を突き出す。それに対してコウは指1本で自分に達する前に、拳の衝撃を殺しながら受ける。
「っう! てめえ何しやがった」
男は叫ぶが、コウは男を無視して考えていた、予想に反して男の拳の威力が強かったため、威力を殺しきれず、コウの指で受けた部分の男の指にひびが入ってしまったためだ。
(ふむ、やはり実戦は少し違うな。戦闘プログラムの補助があるとはいえ、やはりこの手の微細な手加減はAIにはかなわないか)
「無視すんなてめえ」
男は今度は腹に向かって蹴りを入れるが、途中で片手で跳ね上げられてしまい派手に転ぶ。
(しかし、これは金髪男と同じパターンだな。この手の奴らには何かテンプレートでもあるのかね)
コウはそう思いいささか呆れたように、倒れた男を見下ろす。
男は立ち上がりながら。
「女たちだけ無事でいればいい、こいつは殺せ!」
と叫ぶ。しかしその言葉の“女”といった段階でコウは命令を下す。
(頭目以外排除せよ)
立ち上がり終えた頭目が見たものは、綺麗に首を切断され、一斉に倒れていく仲間の姿だった。女たちがいつの間にか倒れた仲間の後ろに立っている。
(いったい何が起きている)
呆然としている頭目の頭が柔らかい、それでいながら力を入れてもびくともしない手で、後ろから捕まえられる。
「情報は取得できるか?」
とコウは頭目の頭をつかんでいるユキに尋ねる。
「脳波とリンクさせます。お待ちください」
とユキが答える。10秒ほどの時間が経っただろうか。その間、頭目はなんとか逃げようともがいているが、ユキの手はびくともしない。
「記憶のダウンロード完了しました」
そう言って、ユキが手を離した瞬間、コウがショートソードを抜き放つと共に、頭目の首を切り落とす。唖然とした表情の頭目の首が地面に落ちると同時に、首から血を噴き出しながら胴体も倒れていった。
「結構時間がかかったな」
とコウが意外そうにユキに向かって言う。
「申し訳ありません。脳波が元の世界の人類と違うため、時間がかかりました。恐らくこれもマナによる影響と思われます。脳波のデータが取れましたので、次回からはもっと早くできます。データチップを利用していないので、プロテクトはかかっていませんが、死ぬと急速に記憶データが失われるのがネックですね。魔法では頭さえあれば、死者の記憶も見る事が出来るみたいですが」
そうユキが説明する。
(なるほど、それで頭だけ持っていけば盗賊の討伐報酬が出るのか。しかし、盗賊は捕まえて犯罪奴隷か、殺すしか選択肢がないというのはどうなんだろうか)
人権意識が低い世界である。しかも下手に盗賊を逃がしたことがばれたら、逆に罪に問われかねないので、冒険者は盗賊を逃がすようなことはしない。犯罪者にとっては厳しい世界だが、それでなんとか治安を保っているのだろう。コウにとって、正直外見は自分たちと変わらない人間を、直接殺すのはあまり気持ちのいいものではなかった。
コウ達はこの世界の鉄則である死体の処理をする。死体の処理とは聖水をかけて清めるか、焼却することだ。そうしないとアンデッドというモンスターになるらしい。聖水はないし、一々火で燃やすのは時間がないので、誰も見ていないのを確認して、プラズマブラスターで死体を灰も残さず消し去る。現代兵器を使わないというマイルールはこういった時はパスだ。
処理を終えるとコウが質問する。
「盗賊たちの基地いや、アジトはこの近くなのかな」
「はい、直ぐ近くです」
ユキが素早く答える。
「それは重畳、お宝漁りでもしますか。ついでに今日はそこで野営しよう」
そうコウが決めると、ユキが盗賊のアジトまで案内をする。アジトにはたいして美味しそうではなかったが、保存食と酒が大量にあった。また予備の武器、お金が金貨25枚と銀貨が5,862枚、銅貨が26,724枚、錫貨が157,781枚、数個の宝石と装飾品があった。すべて亜空間へと収納する。しばらく小銭には困らなそうだ。
コウ達は夕食をとり、盗賊のアジトでゆっくりと休んだ。
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