第30話 Cランク冒険者
コウ達が階段を下りていくと、言い争う声が聞こえる。どうやらレアナが若い、と言っても20前後なので外見年齢で言ったら自分たちより上だろうが、冒険者と思われるパーティーに言い寄られていた。
「だから、全員Dランクに昇格したんだから、条件は満たしてんだろう。このパーティーでもう1年以上やってるんだぜ。なんで昇格試験すら受けられねえんだよ。せめて個人の昇格テストぐらいやれるだろう」
パーティーリーダーと思われる金髪の髪を逆立てた体格の良い男が、カウンターに身を乗り出しレアナに詰め寄っている。
「それは最終判断はギルドの幹部の決議で行われることでして……。理由は開示できない規則になっております。皆様におかれましてはさらなる研鑽をお願いいたします」
レアナは丁寧に答えるが、男は納得できないようだ。パーティーメンバーと思われる者たちもレアナやギルド職員をにらみつけている。
「だから、せめて理由ぐらいは教えろよ。どう頑張れっていうんだよ。言っちゃなんだが、俺たちゃこの間、Cランクモンスターのオーガを倒したんだぜ」
「強ければ良いというものではありません。Cランクになりますと色々な依頼がありますので……」
「冒険者は強くてなんぼだろうがよ! てめえ、俺たちを舐めてんのかよ」
男はレアナに殴り掛からんばかりに詰め寄る。その時レアナはコウ達を見つけ、助かったとばかりに声をかける。
「“幸運の羽”の皆様、Cランクへの昇格おめでとうございます。手続きをいたしますのでどうぞこちらへ」
そう言ってそそくさと、コウ達を事務所の奥へと案内する。
「はあ? ちょっと待てよ、こら」
男が怒鳴るが、レアナは無視する。男達はカウンターの中に入るコウ達をにらみつける。殴り掛かられるかと思ったが、流石にそこまで馬鹿ではないようだ。何か理由があるか、酒に酔っての喧嘩ならともかく、この状況で殴り掛かったら単なる暴行である。当然罰則が科せられる。
事務所の奥のテーブルに着くと、レアナがほっとしたように言う。
「正直助かりました……。時々いるんですよ。ああいう方達が……。まあ、冒険者はいわゆるはぐれ者と言われる方がなることも多いので、仕方がないと言えば仕方がないのですが……」
レアナが愚痴る。確かにそういう事前情報はあったが、今までそんな冒険者を見たことがなかったため、コウ達はこの街は例外かと思っていた。
実際、この街はオーロラやワヒウ、その他の幹部が冒険者をそれとなく、それでもきっちり管理しているため、この手の冒険者は皆無とは言わないが、少ないのは間違いなかった。実質上のギルド本部というのは伊達でないのである。
そして今騒いでいる冒険者たちは、この街のギルド所属ではない。Cランクが殆どいない町の出身者であり、なかなか昇格試験が受けられないため、昨日この街に来たのであった。
「気を取り直して、Cランク登録の手続きをしますね。改めて合格おめでとうございます。では、まず皆様のギルドカードをお渡しください」
コウ達がギルドカードを渡すと、レアナは複雑な模様が彫ってあるボックスの中へとカードを入れる。5分もしないうちに取り出しコウ達のところに持ってくる。赤銅色だったカードが銀色になっている。心なしか僅かに光っているように見える。
「コウさん達“幸運の羽”は全員がCランク冒険者のCランクパーティーなので、このように全部銀色のカードになります。もしパーティーの1人だけがCランクの場合赤銅色に1本の銀色の線が引かれたカードになります。パーティー中2人ですと2本ですね。
このように、全部が銀色になったパーティーを別名シルバーランクと言います。それ以下はブロンズランクと言われます。同じように全員がBランクのパーティーは色が金色になり、ゴールドランク、Aランクになると白金色になりプラチナランクと言われます。数少ないSランクの方は複雑な虹色のカードでレインボーランクと言われます。シルバーランクが真のCランクと言われる方もいらっしゃいます。
これはあくまでも俗称で、ギルド内での正式名称ではありません。ただ、この呼称は一般的に使われていて、依頼書にも使われることがあります。例えば受諾条件Cランク(シルバーランク)以上といった具合ですね」
ここまで説明すると、レアナは確認の為コウ達を見渡す。コウは問題ないと、続きを促す。
「Cランク以上のパーティーとなりますと、ある程度世間の目という事を気にしていただく必要があります。そのため何か起こした時の罰則が、若干ですが厳しくなります。その代わりと言ってはなんですが、Cランク以上の冒険者カードはそれなりに信用される身分証となります。具体的にはお金を借りる時や、住居を借りる、または購入されるときですかね。それだけの収入を得る手段を持ってるって事ですから。
それとCランク以上から降格の制度があります。基本的にはその前に引退される方が殆どなのですが、稀にランクに相応しくない行動をされたり、ランク相応の依頼が出来ないと判断されて、ギルドから降格が言い渡されることがあります」
「依頼ですが、基本的に冒険者はパーティーランク以下の依頼は好きに受けることが出来ますが、Cランク以上になりますと、基本的にそのランクから一つ下までが推奨される依頼ランクになります。
ただ、あくまで推奨なので絶対というわけではありません。冒険者が居ない場所でEランクの依頼を受けたり、たまたまEランクモンスターに襲われた人を助けて事後依頼になったりする事もありますので。それにAランクになりますと、一つ下でBですが、Bランク以上の依頼自体が少ないですから。
まあ、要するに他のランクの者の仕事を、取っちゃダメって事ですね。Eランク以下の方は、一生懸命依頼をこなして、なんとか生活している方が多いですから。
それと、冒険者の心得にも書いてありますが、安い金額、特に無料での依頼の受理はしてはいけません。これも低ランクの冒険者の生活を守る為ですので、ご注意願います」
「以上で手続きと説明は終わります。何か質問はありますか?」
コウは考えてみるが、特になかった。他の3人を見てみるが無いようだ。
「いや、大丈夫だ。何かあったら聞くことにするよ」
予定より長く掛かったが、無事身分証を手に入れる事ができた。いや、Cランクの冒険者カードを手に入れたのは、予想外に早いと言えよう。ある程度信用される身分証を手に入れるのに2、3年はかかると思っていたのだから。
カウンターからギルドの出口へと向かう。
「ちょっと待てよ」
先程怒鳴っていた、金髪の男がコウの肩に手を置いて止める。
(やっぱりね。絡まれると思ったんだ)
コウは溜め息をつくと振り返った。
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