第29話 テスト最終結果

 “嵐の中の輝き”が鐘が3回鳴る少し前に、冒険者ギルドへやってくる。着くと同時に応接室へと案内される。前回と同様にオーロラとワヒウがソファーに座っていた。


「テストの補助、ご苦労様。最終的な見解を聞かせてちょうだい」


 オーロラは優しく微笑んで、ザッツに問いかける。


「全員Cランク冒険者、パーティーとてCランクで問題ないと思う。いや、実際はそれ以上だろうが、規則ではそれが限界なんだろう」


「そうね。今でもかなりグレーゾーンなことを行なってるもの」


「本当なら、規則を曲げても、もっと上のランクにしてもいいと思う。というかそうしてほしい。あいつらと同じランクなんて、正直、気が重い。もし、同じことを求められても困る……」


「それほどなの」


 オーロラは少し首をかしげる。


「ワイバーンを倒したことはもう報告に上がってるよな。まあ、あんた達Aランクなら軽い相手だろうさ。倒したといっても、そういうものもいるって程度の認識かもしれない」


 実際オーロラだったら魔法で、ワヒウは火球をよけた後、剣で倒せるだろう。ワヒウはちょっと苦戦するかもしれないが、負けるとは思っていない。


「でもそういうレベルじゃないんだ。説明しにくいんだが、簡単に言うとあいつらはワイバーンを敵としてみてなかった。そうだな、知らない虫がいたとして、もしかしたら潰したら臭いかもしれないから、棒でつついて殺そう。そんな感じだ。

 ただ単にどれぐらいで死ぬのか、死んだ後どうなるのか、もしかしたらなんらかの危険があるかもしれない。そういった関心しかないように見えた。つまりワイバーンは単なる、もしかしたら危険かもしれない虫程度のものであって、自分たちをどうにかできるような敵として見てなかったということだ」


 ザッツはそう言うと一息つく。


「だが少なくとも、気のいい連中だとは思う。自分たちが怪しまれる事になるのに、きちんと女たちを救出したんだからな。あの手の連中は、恩を売れば、恩で返す。反対に、仇は仇で返す。利用しようと思ったら、その分の恩を先に売っておくことだ」


 ザッツは言い終わると、疲れたとばかりソファーによりかかる。


 オーロラとワヒウは報告を聞いてしばらく黙っていた。考え込んでいるようだ。


「報告ありがとう。助かったわ。少ないかもしれないけど、1金貨、報酬に上乗せしておくわ」


「いや、十分だ。ありがたく頂くよ」


 オーロラの提示した追加報酬にザッツの顔がほころぶ。報告が終わると“嵐の中の輝き”は部屋を出ていった。後に残ったオーロラとワヒウは“幸運の羽”についてどう扱うかを話し合うのであった。


 そのころ、コウは鐘が鳴る音で目覚めた。ユキに聞くと4回目の鐘との事。随分と寝たようだ。二日酔いはしていない。もっとも、していたとしても直ぐに中和剤を注入すれば治るのだが。

 この街に来て、まだお昼を店で食べたことがなかったので、冒険者ギルドに行く途中の店で食べていくことにする。クエスト中に食べる食事をまとめ買いしたときに、何軒か気になる店があったので、そのうちの一つに入る。

 パンやサンドイッチが売ってあり、中でも食べる事が出来る店を選んだ。パンやサンドイッチを適当に選び、空いているテーブルに座る。紅茶を3杯とコーヒーを1杯頼む。


「今日の予定はどうされますか」


 食事が終わり、ゆっくりと紅茶を飲んでいるとユキが尋ねてくる。


「まあ、テストに合格したらの前提だが、オーダーメイドの服を買いに行こうと思う」


 ドレスコードがある店もあるし、そもそも泊まっている宿が高級な方のため、数着はそういった物が必要と思ったからだ。採寸して、デザインを選んでとなると、多分それで今日は終わるだろう。


「そっか、お姫様のような服一度着てみたかったんだよな」


「選ぶのは構わないが、最低2着は店員の選択を優先するように」


 サラが口に出した希望に、コウが条件を付ける。ボーイッシュなサラにフリルのたくさんついた、この世界のお姫様が着るドレスが似合うとは思えない。


「どういう意味さ」


「そのままの意味だ」


 サラが不満そうに口をとがらせて言うが、意見を変えるつもりはない。

 ゆっくりとした昼食をとり、冒険者ギルドへと向かう。6回鐘が鳴るにはちょっと早かったが、まあ大丈夫だろう。

 最初に交換所のところへ行く。ワイバーンの値段は討伐報酬を含め、25金貨と57銀貨だった。解体料として3銀貨引いたとの事。結構な金額だ。というかクレジットに換算したら自分の年収より多い。肉がなかなか手に入らない美味と聞いていたので、1金貨分の肉を現物でもらうことにする。10㎏の塊を10個もらえた。


 “嵐の中の輝き”の面々が酒場の方で食事をしている。いつものごとく半分、この場合13金貨を渡そうとしたが、それはテストとは関係ないものだと、頑として受け取らなかった。仕方なしに肉10Kgを出すとそちらは快く受け取ってくれた。それ以上は腐るのでいらないそうだ。それにしても、やはりワイバーンの肉は魅力的らしい。交換所の方に戻ってもう1金貨分肉をもらう。


 受付はこの時間は殆ど人がいない。レアナにはすぐに会うことができた。応接室でギルドマスターが待っていることを伝えられたので、階段を上り応接室へと向かった。


 応接室にはすでにオーロラとワヒウがソファーに座っていた。コウ達が座ると


「まずはおめでとうを言わせてもらうわ。Cランク冒険者、及びCランクパーティーへのテスト合格おめでとう」


 オーロラはにっこりと笑って伝える。


「ん? 自分たちの冒険者ランクはDなのではないのですか?」


 コウは疑問に思い聞いてみる。


「収納魔法持ちは最低Dランク冒険者になれるってだけよ。今回のテストで全員Cランク冒険者の資格があるとみなされたわ。まあ、正直あまり例はないことだけど。ワイバーンを倒したんだから、文句のつけようがないわ」


 ランクが高くて困ることはないので、素直に喜ぶ。Cランクの冒険者カードはそれなりに信用のある身分証だ。


「ここまでは良い話。残念だけど悪い話もあるの」


 オーロラにそう話を切り出されると、コウは少し身構える。今まで特に運が悪いということがなかったため、ついに来たかという感じである。実際はゴブリン退治に行って、ワイバーンに襲われるなど、不幸としか言いようのないものなのだが。


「詰所を壊した件。罰金刑になったわ。罰金は10金貨。払うまではこの街での依頼以外は受けられないし、1週間以上離れることもダメだけど、まあ、これは問題なく払えるわよね」


 “嵐の中の輝き”が受け取らなかったため、ワイバーンを倒して得た金額の半分にもならない。最悪は金や白金を合成することもできるが、なるべくならそうしたくはなかった。


「それと懲役がない代わりに、ギルドが身元引受人になって、1年は観察処分ということになったわ。具体的には基本的にこのギルドを活動拠点とすること。もし他のところで依頼を受けても、ここにその旨、連絡をすること。この国、リューミナ王国を出ないこと。護衛依頼等で他国に行くのは良いけど、行った先の国では、依頼は受けないこと。他国と言ってもこの大陸内だけで、海を渡って他の国へ行くことはダメよ。良いかしら」


 オーロラがなんとなく緊張したように説明をする。自分たちの罪となることには不満があるが許容範囲内だ。行動制限についても特に問題は無いと思われたので、頷く。

 まあ、原始的な社会としては穏便な方ではなかろうか。郷に入っては郷に従えともいうし……。最初に事情聴取のようなものを受けた以外は、裁判どころか、追加の事情聴取の類いもなかったので、特別措置だと推測される。最悪受けいれられない刑罰が来た場合や、拷問なんか受けそうになった場合は、一時撤退も視野に入れていただけに、ほっとする。


「罰金は、下で渡すと色々面倒なことになりそうだから、ここで私が受け取って、責任をもって渡すわ。その他の処理は下の事務所で行ってちょうだい。これからの活躍、期待してるわね」


 どことなくほっとしたような表情で、オーロラが説明を終えると、コウ達は下へ降りていった。



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