第21話 転職活動(舞台裏?)

 “嵐の中の輝き”が応接室に入ると、ギルドマスターのオーロラに、副ギルドマスターのワヒウが待っていた。両方ともAランクの冒険者である。ワヒウだけならともかくオーロラもいると、Cランクでは上位に位置するとはいえ“嵐の中の輝き”の面々は気後れしてしまう。

 緊張をほぐすように、オーロラは優し気に席に座るように促した。“嵐の中の輝き”の面々が全員ソファーに座るとオーロラが口を開く。


「で、あなた達から見てどうだったの?」


 そう、“嵐の中の輝き”はオーロラから補助パーティの役割とは別口に、コウ達“幸運の羽”の観察の依頼を受けていた。報酬は1日当たり10銀貨、ついでに受ける依頼料としては破格である。ザックが素材の売却金を断った理由もこの報酬があったからである。尤も、元々人が良いという理由もあったが。


「正直、行動に怪しいところは見られなかった。しいて言えば危機感が無いってところか。それが無知からくるものか、自信からくるものかはわからないが。俺の見立てでは自信からくるものだと思う。まるでピクニックでもしてるかのような感じを受けた」


 ザッツが最初にそう報告する。


「自分も、同意見です。戦闘を1回だけ、正確に言えば戦闘後を1回だけ見ました。ホーンラビットを長針で仕留めてました。ですが、長針を誰も投擲した様子は見えませんでした」


 次にピイドが話す。ザッツみたいに、いつもの言葉でしゃべることはできず丁寧語である。


「魔法を使ったってことはない?」


 オーロラがごく一般的な疑問を口にする。


「それはありませんね。ホーンラビットの時に限らず、クエスト中に収納魔法以外に、魔法を使った形跡は確認できませんでしたね」


 とハルガンが答える。その言葉にオーロラはふと疑問に思ったことを言う。


「そう言えば、あなたは彼らが収納魔法を使った時、魔力を感じた?」


「いいえ。ですが、収納魔法は魔法と名がついているだけで、生まれつきの特技のようなものですからね。魔力が感じられないことがあっても不思議ではないのではないですか」


 ハルガンは、自分よりも経験が深いオーロラがなぜそのような疑問を持つのか少し不思議に思った。


「そう、私も魔力を感じさせることなく収納魔法を使える人がいるのは知っているのよ。でも四人揃ってというのはあり得るのかしら?」


「確かに……そうですね」


ハルガンもそう思った。が、実際そうだったのだから、そうなのだろうと思っていた。このあたりがギルドマスターたるオーロラと、Cランクであるハルガンの差だろう。


 オーロラは、話を途切れさせてしまったので、他のメンバーにも話してもらうよう促す。


「自分は淵で魚をとった方法が気になりましたね。まあ、岩を殴って小魚をとるって方法は珍しいもんじゃないですが、威力が桁外れです。Eランクのモンスターとは言えワニミラが気絶して浮かび上がるんですからね。オークどころかオーガの頭でも、当たったらぶっ潰れるんじゃないですかね。そしてそれほどの威力を、折れやすい剣の腹で盾を殴って起こしたんですよ。しかも両方とも自分が見た限り傷一つついちゃいなかった……」


 ハザも自分が気になったことを話す。


「害虫がいなかった……」


 ミストがぼそりとつぶやく。


「そういや、草原でも、森の中でも蚊に刺されたり、ヒルに咬まれたりすることはなかったな。野犬やオオカミの類にも遭わなかった。サイクロプスの生息域にも行ったんだが、幸運なのか、それとも何か他に要因があるのか、気配を全く感じなかった。こんなことが無いとは言わないが、珍しいことは確かだな」


 ミストの言葉にザックが補足する。その言葉に続いて、何か思い出したのかピイドが話し始める。


「それと、これは根拠のない勘のようなものですが、軍人のような、訓練された動きのようなものを感じました。またパーティリーダーのコウですが、とても18歳には見えませんでした。いや外見だけでいえばもっと若く見えますよ。それこそ15歳と言われても違和感はありませんね。ただ、命令をする事に慣れた感じを受けたんですよ。それも、何年も軍隊で指揮官をやっていたような……」


 これは、事前にコウ達に聞いたツシドの軍にいた、ということを考えれば矛盾しない。コウが才能を見込まれ、幼いころから同じ境遇の者の、纏め役をやらされていたのかもしれない。


「どこかの国の工作員って感じはなかったか?」


 今度はワヒウが聞く。ワヒウの見立てでは可能性は低かったが最も恐れている状況でもある。正直、戦闘力だけで見るなら、この街に勝てるものがいるとは思えなかったからだ。もしかしたらこの国にもいないかもしれない。


「うーん。そんな感じはしなかったな。それに工作員にしちゃ目立ちすぎじゃないか。あれじゃあ、何をしても目立ってしまう。もちろんそれを隠れ蓑にして他の工作員が動いてるって可能性はあるが……」


 とザッツが言う。


「可能性は低い……動きが堂々としすぎている……後ろめたいことのある人間の動きではない」


 ミストもそう言ってザッツに賛同する。


「後2回、俺たちが補助パーティでいいのか。正直、戦闘力は俺たちでは多分、分からない。それに、Bランク以上のモンスターがいる地域に何度も行く気もない。サイクロプスは発見しやすいし、動きが遅いんで、いざとなったら逃げきれる自信があったから引き受けたが……Bランクパーティーに頼むか、いっそのことギルドマスター達が補助パーティをした方が良いんじゃないか」


 ザッツはオーロラたちにそう提案するが、


「対象が目立っているうえに、例外措置もしているわ。これ以上やったら、私たちが彼らに疑われること間違いなしだわ」


 オーロラはそう言ってザックの提案を却下した。


「ただ、後2回は無難なものを選ぶわ。どうせ戦闘力が分からないんだもの、何かあってあなた達が潰れてもらっても困るし」


 ザッツ達はBランクには届かないまでも、Cランク上位の実力を持つパーティである。そして全員がCランクの実力の持ち主で、一般的にはシルバーランクと呼ばれている。堅実で依頼達成率、満足度共に高く、ギルドの信任も厚い。そう簡単には替えの利かない貴重なパーティである。


「そうしてくれると助かる。正直、あいつらの強さを測るって依頼は俺たちの手に余る」


 ほっとしたようにザッツが言う。


「依頼は無難なものを選ぶけど、報酬は最初の通りにそのまま渡すわ。今回無茶させた迷惑料と思ってちょうだい」


「そいつはありがてぇな」


 ザッツは36歳、前衛を務める戦士であり、重量のある大剣を使用するスタイルである。自分の強さのピークはすでに過ぎていると考えている。あと4,5年は経験によってカバーできるだろうが、それ以上は厳しい。それにまだ伸びる可能性のある、ピイドやハザのお荷物になりたくなかった。

 そう考えてしばらく前から引退を視野に入れて貯金をしていたので、正直オーロラの提案はありがたかった。

 通常ならもう少し年齢が過ぎてから、引退までに多くの依頼や、報酬のいい依頼をこなして金を貯めるものだが、ザッツは外見に似合わず堅実な考えをした。無理な日程で依頼は受けない。そしてそうした性格のザッツが率いるパーティ“嵐の中の輝き”は自然と堅実、という評価を受けているのであった。



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