第14話 冒険者カード発行(仮)

 コウ達はレアナの案内に従い、ギルドの建物の2階へと向かう。装備はかさばるものは亜空間へと収納しておく。ドアを開けると会議室のようだった。長方形のテーブルが中央に一つあり、椅子が片方に3脚ずつおいてある。隅にも椅子が重ねてあり、最大で10人で会議ができるようだった。

 レアナが片方に椅子を1つ動かし4つにし、少ない方の椅子に座り、対面にコウ達に座るように促す。


「では、冒険者ギルドへの仮登録のために書類を書いてもらいます。正式に登録になった時にはそのままこの情報が使われますので、記入は正確にお願いします。文字が書けない方はいますか?」


 コウ達は首を左右に振る。


「では、それぞれ配りますね。それにしても皆さん、お強いんですね」


 レアナは登録用紙を配りながら話しかける。


「ん?、なぜそう思ったんだ」


 参考までに、と思いコウが尋ねる。


「だって、私が受付に戻ったとたんに、終わったって連絡が来ましたから。それって戦闘が始まってすぐに終わったってことですよね。それに誰も汗一つかいていませんし、どこも汚れていません。疲れたような様子もありませんし、自慢げな様子もありません。一方的な戦闘だったんでしょう?」


 よく見ているな。優秀な人物のようだ。AIの補助があるにもかかわらず自軍の戦力を間違えた、かつての部下と脳みそを入れ替えたい。それがコウが思った印象だった。

 だが、これくらいの観察力は冒険者ギルドの受付嬢にとっては当たり前のことである。そうでなければ寿退職などできない。この世界は25歳を過ぎたら行き遅れである。ギルドでもそれぐらいから事務所員へ配置転換になる。そうなったら出会いが少なくなり、ますます結婚できなくなるので必死なのだ。そして、この世界は独身者、特に女性には冷たかった。


 しかもレアナは、コウはダイヤモンドの原石どころかダイヤモンドそのものだと思っていた。パーティー内に自分では到底敵わないような美女が3人も居るが、コウから他の女性に対して恋愛感情みたいなものは感じない。ならば自分にもチャンスはあるはず、と考えていたのだった。

 残念な事だが、確かにレアナが考えているように、コウは当たり前だがAIである他の3人に恋愛感情など抱いていない。ただ、いくら肉体的には老いないとは言え、精神は老いるもので、恋だの愛だのといったことは200歳を超えてからしたことはない。だが、そういった事情はレアナには判りようもない事だった。


 コウ達は記入用紙に自分の履歴を書いていく。話を合わせる必要が有るようなところは思考通信を使い矛盾が無いように気をつける。

 年齢はコウ18歳、他の3人は17歳とした。魔法は全員収納魔法持ち。ただし、他の魔法は使えない。欄を埋めていき、最後にパーティー名を書く欄にさしかかった所でペンを止める。これは普通に話して決めた方が良いだろう。


「パーティー名はどうする?」


 コウがみんなに尋ねる。


「私は無難で目立たないのが良いです。出来れば聞いて3歩も歩いたら忘れるような名前が良いですね」


 ユキが言う。これはあれか、今まで散々目立ってしまった俺への皮肉か。と言うか、3歩歩いたら忘れるような名前って、逆に凄いわ!


「あたいはさあ、やっぱりかっこいいのが良いなあ。なんか竜とか虎とか鷲とか付いてるとかっこいいよな。4人パーティーだから"焼き尽くす竜と荒れ狂う虎と舞い踊る鷲と引き裂く鬼の愚連隊"なんてかっこいいと思わないか」


 と、サラが言う。意味わかんねーし、なげーよ。それに全然かっこいいと思わない。3歩歩いたら忘れる名前じゃなくて、これは最初から覚えられない名前だ。その内、あれだよあれ、竜とか虎とか付いてるなんか長い名前のパーティー、とか言われるやつだ。


「私はそうですわね。やはり花の名前が付いた、優雅な名前が良いですわ。例えば"地上に降り立つ百合の騎士"なんて如何かしら」


 最後にマリーが意見を言う。他の2人よりましな名前だが、百合の騎士、というのが嫌だ。かといって、薔薇の騎士とかいったら、もっと嫌だ。なんか最初に百合とか薔薇とかイメージしたせいで印象が悪い。頭の中に花をバックにして見つめあう女性騎士とか、パッツンパッツンのブーメランパンツをはいた、筋肉ムキムキのむさい男の集団しか浮かばない。


「まあ、コウが決めるのが一番ですよ。なんと言ってもリーダーなのですから。初仕事と思ってみんなが良いと思える名前を付けてくれれば良いですよ」


 ユキが良い感じでまとめるが、それってハードル高いよね。3人が3人とも好みがバラバラで1μmも合ってないよね。と言うか世間一般で言う丸投げってやつだよね。これって3人で協力して嫌がらせしてるのか? そうコウが疑うレベルの意見の合わなさである。

 他の3人と相談しても無駄だとわかったので、コウは1人で一生懸命考える。まあ、そんな大層な名前じゃなくていいんだよな。しばらく考えた後、パーティ名を記入する。


「“幸運の羽”ですか。なんか素敵なパーティ名ですね」


 パーティ名を見たレアナが言う。コウは、(そう、こういう反応が欲しいんだよ。君たち3人ともちょっとは見習いたまえ)と心の中で叫ぶ。


「よろしいんじゃないでしょうか。羽のように軽いということで」


「あたいもそれでいい。羽というのがちょっと軟弱っぽいけど、帽子に羽をつけるとかっこいいし、それにその羽がフェニックスの羽とか考えると強そうだしな」


「私もいいと思いますわ。花の名前はありませんけど、なんとなくふんわりとした感じがしますもの」


 とりあえず3人とも満足したようである。もっともコウは、誰かが反対したからと言って、一生懸命考えたこの名前を変える気はさらさらなかったが。


「ではしばらくお待ちください。冒険者カードを作ってきますね。書棚の中にちょっとですけど街のガイドブックみたいなものもあるので、それでも見ていてください。宿も食事も街に慣れるまではその本に載ってる宿を使った方が良いですよ。ギルドの信用にかかわるので、お金を積まれたとしても、ちゃんとしたお店しか載せてませんから」


 そう言って、レアナは部屋の外へ出ていった。


 コウはとりあえず薦められたガイドブックを手に取って開いてみる。街のデフォルメされた地図とギルドと提携している宿屋や食事処、武器屋、防具屋、そして兵士の詰め所、領主の館、商人ギルド、鍛冶屋ギルドなどの公共性が高い場所などが記されていて、それぞれ簡単な紹介が載っている。事前に使おうと思っていた宿の”夜空の月亭”も載っていた。

 詳細な地図は人が通れないような小道まで、すでに頭の中に入っているので、情報の照合と追加を行う。


「今日は何を食べる?」


 コウが3人に尋ねる。このような自然豊かな惑星に降り立った以上、やはり気になるのは食事である。しかも、今日は昼食も取っていない。


「私は昨日肉をたくさん食べたので、魚を食べたい気分なのですが……。あまり食べるところがありませんね」


 ユキは魚を食べたいようだ。


「あたいは、肉でも構わないけどな。美味かったし。しいて言うなら違う料理法の店が良いってぐらいかな」


 サラは特にこだわりはないようだ。


「わたくしは出来ればコース料理、というものを食べてみたいですわ。ただこれも余りお店はありませんわね。それに入るのにドレスコードがいるのでなかなか難しそうですわ」


 マリーは食べたいものが食べられそうにないため、少ししょんぼりしている。


「それではここの店にしてみるか」


 そう言って、コウは地図に書いてある“腹ペコ穴熊亭”という店を指す。説明によると他の店が専門店的なものが多い中、大衆居酒屋みたいな感じで料理の種類が比較的多い。少ないが川魚の料理もあるようだった。


「お待たせしました」


 鐘が8回鳴ったころ、レアナが冒険者カードを持ってくる。不思議な金属のカードで、名前、所属ギルド、ランク、職業、パーティー名が書いてある。


「このギルドカードは特殊で、偽造や改造ができないよう、ギルドの技術が詰まってます。再発行には銀貨10枚が必要なので失くさないようにしてくださいね。今日の作業はこれでおしまいです。明日、忘れないようにギルドに顔を出してください。お疲れさまでした」


 そう言ってレアナは頭を下げる。いつもながら綺麗な仕草だと思う。


 外に出てみると、日は傾いているもののまだ明るい。ただ、ちらほらと門のところに外から帰ってきた農民たちの姿や、街に入ろうとしている商人の姿が見える。

 コウ達はまずは宿をとるため“夜空の月亭”まで足を運んだ。



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