第3話 私、ホントにイカなの?
避けられて悔しいからさ、私、イルカを追いかけてみた。
したら、すごく目がいいんだよね、私。
血走った目で必死に逃げるイルカたちの表情、見ていてつらい。
中には必死で泳ぎすぎて、酸欠を起こして溺れかけている子までいる。
なんでよ?
私がなにかしたっていうの?
ひどいじゃない。
悲しいのと悔しいので、頭ん中ぐちゃぐちゃになったけど、もういい。
私、このまま独りで不幸なイカとして生きていくしかないんだ。
どうせ、どうせイカですよー、だ。
そう思いかけて。別の疑問が湧いた。
私ってイカだとしたら、なにイカなんだろう?
だってさ、ダイオウイカだってタンカーほど大きくはない。
あまりに大きすぎるよね。
スルメイカはスーパーで売っていたけど、そんなに大きくなかった。
あとはどんなイカがいたっけ?
私は泳げないから、水が嫌い。だから、イカの種類なんて知らないもん。
それでも、ダイオウイカより大きいイカはいないような気がする。
じゃあ……。
じゃあ、私、クラーケンってやつかな。イカのモンスター。
そこまで考えたら、急に怖くなってきた。
さっきのタンカー、甲板にいた人たちは怯えながらも私にスマホを向けていた。
今頃、Y◯u Tubeで私、バズってるかも。
そして、来月の怪しい月刊誌△ーで、緊急総力特集が組まれちゃうのかも。
そしたら、深海までスカウトが来て、歌って踊れるJKクラーケンとしてデビューして……。
はぁ。
ないない。
それより、米軍の原潜が魚雷を撃ち込みに来るかもしれないよね。
モンスター退治だって。
一体、私がなにをしたっていうのよ?
タンカーのあとを追いかけただけじゃない。
はぁ。
ため息をつくたびに、カラダが結構なスピードで動いていく。
そもそもさぁ、私は今どこにいるんだろう。
最初に目を開けた位置だって、なにも目印は見えなかった。
私はどこから来て、どこに行くのか。
うん?
ちょっとカッコいいかも、私。
いいよね、悩む乙女。
こう、うつむき加減に悩んでいると、髪の毛が一筋はらりと顔にかかる。
それをかきあげて、ため息を一つ。
これはいいわー。
美少女の特権だわー。
あ、嘘じゃないよ。
友達のミミだって、私のことを「あおりってホント、きれーだよねー。伝説になるくらい。あー、伝説伝説」って感動のあまり、平坦になった声で言ってたし。たぶん、同性でもテレちゃうんだろうね。
私への賛美を目をそらしながら言うの、「可愛いところあるじゃない」って思っていたくらい。
って、私の自慢の髪の毛はどこ?
ああ、そうだった。
私はクラーケンだったよ。
そのうちに、退治されて、どこかの水族館にアルコール漬けで展示されちゃうんだ。
それを私の両親が見ても、実の娘とは気がつかないんだ。
あまりに思い浮かべた将来像が真っ暗だったので、私、泣きながら海底に向けて沈んでいった。
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