第2話 どーなってんの、私のカラダ!?


 吸盤が付いた腕って言ったって、肘はどこよ?

 私の細く美しい指はどこ?

 私のすらりとした足は、8本もあったっけ?

 しかもなんで足にも吸盤が……。



 おまけに、私のナイスバデーはどこ?

 カラダ中を探り回してわかったのは、私のカラダ、頭から足が生えてる。

 あのね、友達のミミから「貧弱なナイスバデー」と言われていても、バデー自体はあったんだよね。

 それはどこに消えた?


 いくら探り回しても、頭から足と手が生えてる。

 で、吸盤の手足。

 ただ、手と足は長さが違うから、一応は別のものらしい。

 となると、タコではないよね。

 つまりはイカだ。


 私は、イカになってしまったのだ。


 そう思って、私はパニックに……、ならなかった。

 だってさ、周囲にホッケ以外、誰もいないし。

 あせっても、独りで手足振り回しているだけだし。

 周囲の海水は冷たくても寒くないし、苦しくないし、お腹すいてないし。

 慌てる意味がない。

 そりゃ、驚きはしたけれど。


 イカって、どんなふうに泳ぐんだろう。

 とりあえず、8本もある足をバタ足に動かしてみる。

 だめだな、これは。


 手を振り回しても見たけど、やっぱりろくに前進しない。


 思わずため息が漏れた。

 すうーっ。

 あっ?

 息を吐き出すと、泳げるんだ。

 ああ、なるほど!


 手足の動きを連動させて、思いっきり息を吐く。

 おおおっ、速いぞー。

 これは楽しい。


 よし、明るいところまで浮上して、偵察してみよう。

 ビーチがあったら、日光浴しながらノンアルコールカクテルとか飲むのも悪くないよね。

 イカでもJKなんだから、なんかおごってくれる人くらいいるはずだよね。



 という考えは、脆くも打ち砕かれた。

 浮上して、タンカーが航走していたから、その後を追ってみたの。

 そしたら、甲板の上で大騒ぎになっている。


 うん、私、大きい。

 たぶん、タンカーより大きい。

 これは大騒ぎになるわ。

 ビーチに上陸なんかしたら、ビーチ全滅だわー。


 これはダメだ。

 私は初めてそう自覚した。

 同時に、タンカーの人たちが怯えているのがわかって、さらに落ち込んだ。

 いいもん、いいもん。

 深海に帰るから。



 ゆっくりと沈降していく私の視野に、イルカの群れが横切る。

 そのイルカも、私に気がつくと、そそくさと逃げていく。

 なんでよ?

 ひどくない?

 このか弱い私から、そんなふうに逃げるだなんて

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る