第23話
お客さんが来てくれたことに嬉しさと驚きが生まれた。
「ええ、売っていますよ。こちらのロングソードになります。持ってみますか?」
しかし、すぐに俺はにこりと微笑んで彼のほうにロングソードを渡した。どれも出来はほとんど同じなのだが、その中でも一番いい奴を渡した。
最初のお客様なんだからな。
彼はロングソードを握ってから軽く振った。その際に服がめくれたのだが、中々良い筋肉をしている。
「冒険者ですか?」
「は、はい! 今Fランク冒険者で、今Eランク目指しているところなんです!」
「そうですか」
そうなると、もしかしたら予算が厳しいのかもしれない。
「このロングソード、凄い軽いし使い勝手がいいですね!」
「特別なエンチャントを施していますからね。そのロングソードになれてしまうともしかしたら他のロングソードが使いにくく感じるかもしれませんので、注意してください」
「た、確かに……こ、これ一万ゴールドで買えますか!?」
自分の持っている全財産を相手に教えるのは愚の骨頂だ。常に余裕をもって、値引き交渉をするのが基本なんだ。
そして、一万ゴールドは俺の想定よりもずっと安かった。
しかし……足りない分は、口コミで仕事をしてもらえばいいか。
「本来、このロングソードは五万ゴールドなんですよ」
「……え? そうなんですか」
しょんぼりと肩を落とす少年。
……まあ、さすがに五万ゴールドは嘘である。三万ゴールド、値切られても二万ゴールドくらいで売るつもりだった。
「でも、今回は特別に一万ゴールドで売ります」
「え!? 本当ですか!?」
「はい。ですから、安くした分の代わりに……もしもロングソードを扱う友人や冒険者がいましたらこのお店について教えてくれませんか? 毎週この市のこの辺りにこの旗を置いて商売しているので」
俺がそういうと少年はこくこくと頷いた。
「わ、分かりました! 仲間にも教えますね!」
「ええ、ありがとうございます。それでは確かに一万ゴールド受け取りました」
俺は一万ゴールドと引き換えに、彼にロングソードを渡した。
少年はすっと頭を下げた後、嬉しそうにロングソードを抱きしめて去っていった。
……まあ、予定よりも金額は低くなったが、それでもこちらとしては利益が出る範囲の金額だ。
それに、素材である魔鉱石に関しては現状公爵様の支援ありでの状況だからな。
まあ、利益は公爵様に納めなければならないが、それに関してもあくまで俺の自主性によるものだ。
いくら稼げとなど、明確な売り上げについての現況はないので、気にする必要はないだろう。
「う、売れたね!」
「そうだな。……とりあえず、今日の目標は達成できたな」
ほっと息を吐いた。
「目標……だった? でも、まだ四本のこってるよ?」
「いきなり全部売るのは難しいと思っていたんだよ。だから、とりあえずは一本だ。さっきの子が俺のロングソードを良い物と思ってくれれば、あとは勝手に周りに伝えてくれるはずだ。とりあえず、来週までに武器の種類を増やしておかないとな」
「……そっか。うん、無理しない程度にがんばってね?」
「ああ、分かってる」
俺の宮廷での仕事ぶりを聞かせてから、アリシアはそこをとにかく心配してくる。
……今まではどれだけの無茶をしたところで壊れるのは俺の体くらいだったが、今は違う。
無茶をして情けない姿をゴーラル様にさらすわけにはいかない。
アリシアの結婚相手として、恥ずかしくないよう頑張る必要がある。
偽装、ではあるんだけどな。
その後、商品が追加で売れることはなく、陽も落ちて来たところで俺たちは店を片付けた。
初日の売り上げは一万ゴールド。
俺としては上々な立ち上がりだった。
この場で拳をぐっと握って喜びをあらわにしたかったけど、ちょっとばかり子どもっぽすぎるだろう。
隣にいるアリシアの前だ。俺は少しでもかっこよく見せられるように、喜びの感情は内側にとどめた。
それでも、自然と口元が緩むのだけは、抑えられなかった。
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