宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~

木嶋隆太

第1話

 俺は宮廷鍛冶師だ。

 宮廷に出入りする騎士、そして彼らの部下たちの武器を作り、メンテナンスするのが仕事だ。


 元々地方で鍛冶師として仕事をしていた俺は、才能をかわれ宮廷鍛冶師となった。


 初めてスカウトが来たときは滅茶苦茶嬉しかったものだ。

 だって、宮廷鍛冶師は鍛冶師にとっての頂点だったからだ。


 だけど、ここはそんな輝かしい場所なんかじゃなかった。




「おい、仕事片付けておけよ!!」


 宮廷にはいくつかの部署があり、俺が所属しているのはもちろん鍛冶課だ。

 そのトップの人間である鍛冶長モルガンが俺へ怒鳴りつけて来た。


 本来は鍛冶課の人間全員で行う武器のメンテナンス。それを、俺は一人押し付けられていた。

 俺は少し眩暈のする視界の中で、モルガンに声をかけた。


「で、ですが……先週も休みなく、ほぼ毎日朝から晩までやっていて……もうその体がもちません! 休みを、一日だけでいいですから!」

「ああ!? 体がもたない? なんだその情けない言い訳は!!」


 ばしっと頬が殴られる。同時に、モルガンの仲間たちがこちらへとやってきて蹴りを放ってきた。


「すみません、すみません!」

「謝って済む問題じゃないんだよ! 口答えした罰だ!」

「そうだそうだ! モルガンさんに謝れよ!」

「申し訳ございません、申し訳ございません!」


 俺は必死に謝罪の言葉を口にするが、彼らは愉快そうに笑っていた。

 しばらくして、ようやく解放された俺は呆然と彼らを眺めることしかできなかった。


「それで? やるのか? やらないのか!?」


 モルガンが再び声を上げる。その耳が痛くなるような叫びに、俺は無感情で頷いた。


「……分かりました、頑張ります」

「それでいいんだ。さっさとやっておけよ!」


 受け入れるしかない。否定すれば、また殴られるだけだ。この鍛冶課の事務所にいる人間は全員、モルガンの息のかかった人物たちだ。


 宮廷外に行けば、別の鍛冶師もいるのだが彼らがこの宮廷にまで足を運ぶことはなかった。


 モルガンたちはこれから食事にでも行くのだろう。楽しそうに会話をして部屋を出ていった。


 別にそれに参加したいわけではない。むしろあんな息詰まる場所に参加したいなんて気持ちは一切ない。

 どうせ行ったところで、モルガンたちの顔色をうかがうばかりなんだ。

 

 俺は作業室へと移動する。そちらに運び込まれていた大量の剣たちのメンテナンスを開始するためだ。

 部屋に入ると、剣の入った箱がいくつも積まれていた。これらは騎士たちに支給されている剣だ。


「……はぁ」


 今日から明日、明後日は土曜日日曜日と休みとなる。

 これを次の月曜日までに終わらせないといけない。間に合う気はしないが、間に合わなければまた……殴られる。

 

 とりあえず、休日出勤は確定だな。

 土日に出勤しようとも、給料が増えるわけではない。


 俺は箱に入っていた剣を取り出す。鞘に収まったそれの状態を確認する。

 俺たち鍛冶師の仕事は二つある。


 一つは武器を作ること。

 もう一つはエンチャントと呼ばれる武器の内部にある魔力情報を強化するのが仕事だ。


 剣の切れ味を上げたり、頑丈さを上げたりするのが仕事だ。


 今の俺が主にやっている仕事はこのエンチャントだ。

 このエンチャントによって、武器は手入れをしなくとも錆びることも、手入れも必要とせず使用出来るのだ。


 ただし、効果は一週間ほどで切れるため、毎週のように大量の武器が鍛冶課に運び込まれてくるのだ。

 エンチャントが残っているものはその修復を行い、エンチャントが切れてしまっている場合は一から作り直す必要がある。


 魔力を常に使うため、眩暈に襲われる。

 けど、やらないと。

 俺はほとんど意識がない状態のまま、流れ作業のようにエンチャントを施していった。

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