狂科学者の伝え方

テーマ:バレンタイン



 マンションの自室に帰ると、部屋の中にデカい箱があった。

 1畳程度の高さ。縦横は半畳程度。

 それが部屋のど真ん中に置いてある。


 ……まーたあの子の仕業か。

 鍵変えても意味無いな。


 スーツの上着を椅子にかけ、さてと向き合う。

 見た目はただの箱だ。金属製で、押してみるとかなり軽い。

 どうやって運んだんだ、これ。

 あの子のやる事は毎度よく分からないな。


 犯人は恐らく、隣に住むマッドサイエンティストの女の子。

 いつもよく分からない発明品を見せてくれる、少し変わった子だ。

 黙っていれば深窓の令嬢なのにな。


 さて。それはさておき、これはなんだ?

 ただの箱にしか見えないが、あの子の事だ。何かギミックがあると思うんだが。

 ヒントは無いかと部屋を見回すと、テーブルの上に1枚の紙。


『箱の中身はなんでしょう。フルネームで呼んでね☆』


 ヒントどころか答えが書いてあった。



 まぁなんだ、あれか。

 今日はバレンタインデー。つまり、チョコを渡しに来たのだろう。

 ふむ。このまま名前を呼ぶのも面白くないし、どうするか。

 

 ……そうだな。では、こうしてみようか。


「箱の中身か。そうだな、俺の理想としてはまず、小柄で黒髪の女の子だな。細身の体型で、胸はそれほどなくて良い」


 カタリと箱が動いた。


「笑顔が魅力的で、実は家事能力が高くて、いつも俺の部屋を掃除してくれている。飯も美味い。特にシチューが最高だったな」


 カタカタと箱が動いた。


「いつも俺を見ていてくれて、発明品を見せてくれている様はとても愛らしい。可愛いさのあまり、自制出来なくなる日が来るんじゃないだろうかと思う」


 ガタン、と箱が跳ねた。


「もしこの部屋の中で二人きりになんてなってしまったら、欲望を抑えきれる気がしない。多分、俺の事を好きでいてくれるだろうし」


 沈黙した箱に寄り添い、囁く。


「いっその事、美味しく頂いてしまうかな?」


 ゴトリと、箱が倒れた。

 きぃ、と箱が開く。


「いらっしゃい。こんばんは」


 彼女の顔はトマトのように赤かった。

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