陛下!祠回しですよ!~第二の脱落者~

うっそうとした針葉樹林の森。

昼だというのに夕方みたいな薄暗さ。


「なんだか怖いですね。熊とか出てこなければ

いいんですが……」

ボールが辺りを見回す。

「そうだな」

皇帝は顔色ひとつ変えない。慣れているのだろうか。

皇帝がそんな山に頻繫に入るっけ……?


「僕、熊に会ったことありますよ」

「え? そうなの?」

「はい」

少年は元気に答えた。この子も慣れてるの……?

「村の猟友会のおじさんたちと一緒に山に行ったときに

出会いましたよ。村には頻繫に熊が出るんでたまにお仕置き

しないといけないんですよ」

「へえ……」

村にも現れているのだ。頻繫に。もう二回もあの村を訪れているのだ。

出会わなくてよかった~。ボールは胸をなでおろした。

「それにしても元々住んでいる所に入って行ってお仕置きとは

どういうことかね?」

「いやいや、熊はときどき僕たちの畑を荒らすんですよ。

熊の頭数を減らしておかないと、また山から下りてくるんで」

げげんな顔をした皇帝を恐れて少年は慌てて補足した。

ボールはたくさんの熊が村に一気に押し寄せる画を想像して身震いしていた。



一行の目の前に祠が現れた。

大きな祠だ。

山小屋という感じだ。


「いよいよ、たどり着いたんですね……」

「そうだな……」

「開けますね……」

少年が扉のドアノブに手をかけた。少し扉が開いた。

「開いてますよ!」

「でかした! 入ろうぞ」

少年を先頭に皇帝、ボール、兵士たちの順に次々と祠に入っていった。


『いらっしゃいませ! ようこそ総合の祠へ!』

中に入った途端、直接一同の頭の中に声が鳴り響いた。


「今なんと……?」

「いや僕はなにも言ってません」

少年は首を振った。

「ボールか?」

「いや今のは女性の声でしたよ」

「そうか……」


『代表者の方はどちら様でしょうか?』

「はい」

皇帝が手を挙げた。

『今日はどのようなご用件でいらっしゃいましたか?』

「えーと、精霊に会いたくて」

『それでしたら担当者がおりますのでそちらの方に

向かっていただけますでしょうか?』

「向かう……?」

『はい、担当者の祠にです』

「はあ……」

『場所はここから北にトウヒ百本進んで現れる池の前を

右折してトウヒ50本進んだ先です。迷ったら再びここに

お尋ねくださいね』

「……はあい」

皇帝は冷めた顔をして祠を出て行った。



「ふう、池から50本目に来たぞ。やっと本来の祠に着いたな」

一行は祠に足早に入っていった。

『いらっしゃいませ! ようこそ精霊の祠へ!』

中に入った途端、直接一同の頭の中に声が鳴り響いた。


「あの精霊に――」

『代表者の方はどちら様ですか?』

「はい」

皇帝は力を入れずに手を挙げた。

『ご用件は?』

「だから精霊に会いたくて」

『それでしたら担当者がおりますので、そちらの

方でお願いいたします』

「あの、そなたが担当者だと聞いたのだけど」

『はい?』

「そなたが精霊に会わしてくれる担当者じゃないのかの?」

『私は精霊全般の統括をしておりますので、具体的なことまでは

対応しかねます。ですので申し訳ないんですけどもここから西に

トウヒ600本分行ってもらって――』



「ホントに会えるのかの?」

「まさか熊に会うトラップとかじゃありませんよね?」

「そんなわけないじゃろう。熊が直接頭に語りかけるような

ことはせん」

再び森の中。身震いするボールをよそに皇帝は暗い顔で前を歩き続けた。

「大丈夫ですよ。ここには帝国の精鋭が集まってるんですから」

少年が後ろに続く兵士たちを見て言った。

この状況でもまだ楽しそうである。

純粋な時代というものはいいな……。

そう思ってボールは少年を羨ましがるのだった。



『いらっしゃいませ! こちら精霊面会の祠です』

中に入った途端、直接一同の頭の中に声が鳴り響いた。

「精霊に会いに――」

『代表者の方はどちら様で――』

「はい、はいはい!」

皇帝は天井を睨みつけながら手を挙げた。今なら熊を

倒せそうだ。

『ご用――』

「精霊に会いたいのだ! 早くしてくれ!」

『落ち着いてください。わかりました。それではそちらの

タンスの引き出しから整理券を取ってください。

時間がきましたらお呼びいたします』


祠の中は住居のようになっていて、机やら椅子やらベッドやらが

置いてあるが、確かにタンスもある。

少年が近づいてタンスの引き出しから小さな紙切れを手にした。


「整理番号1ですって。はい、陛下」

少年が渡した紙切れを皇帝は取ろうとした。しかし、どうも

整理券が少年の指から離れない。

どんなに引っ張ってもうんともすんともいわない。

「あれ? もしかして取った本人にしか使えないのか?」

「あ、陛下。まだまだ整理券は引き出しにあるようですよ」

ボールが引き出しの中の整理券を取ろうとした。

整理券はヒュイっとボールの指の間という間を踊るようにして

すり抜けた。

一方皇帝の指には整理番号2の紙がしっかり絡まった。


その後、兵士たちも次々と試してみると、整理券を得た者、

整理券を得られなかった者にはっきり別れた。


「一体どういうことなんだ……?」

一同首をかしげている間に再び頭に声が鳴り響いた。


『整理番号1の方。今すぐ面会担当の精霊の元に転送いたします……』


少年の周りをまばゆい光が漂い始めた。

その光は少年をまゆのように包み込み、明るさを増していった。

少年の体が浮き上がったかと思った次の瞬間、少年は光と共に

姿を消した。

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