陛下!激流ですよ!~最初の脱落者~

 翌朝、ようやく日が昇ってきた。

 一同むくむく起き上がる。

「いや~よく眠れなかったな~。」

 兵士の一人がつぶやく。

「寒すぎでしょここ」

 もう一人の兵士があくびをして身震いする。

「それに……」


 二人が見つめた方向にはゴルボルがたいそううるさい

 いびきをかいて寝ている。こんな寒いのに毛皮に包まれ

 幸せそうな顔でよだれを垂らしている。


「ゴルボルさん、起きてください」

 ボールが必死に彼をゆすって起こそうとするが、彼は

 岩のように固く、重すぎて全く動かない。

 しまいにはボールも汗をかいてへたり込み、諦めてしまった。


 そんなとき、一筋の光の柱が太陽とは反対方向に空から地上に

 突き刺さった。

「なんだ、ありゃあ?」

 兵士の一人が素っ頓狂な声を出したすぐ後に地響きが鳴り響いた。

「ん……?何……?」

 ゴルボルもさすがに起きだしたようだ。とっても大きなくしゃみもした。

 しかし今はそんなもの全く目立たない。

 なんせとてつもなくまばゆい光の柱が見えているのだ。

 これは行かないわけには――。


「陛下、もしかしたら祠かもしれません。行きましょう!」

「ううん。罠かの…?祠かの…?」

「そんなことおっしゃってる場合じゃないですよ、行きましょ、

 行きましょ」

 少年の勢いに押され、皇帝は馬に乗った。

「ちょっと待ってくださいよ~」

 ゴルボルが呼び止めた。

「なんじゃ?」

「朝ごはんは食べないんですかぁ?」

「あ、忘れてた」


 他の主人公は飯などガン無視で向かいそうな光の柱を背に、一行は

 朝食を取るのだった。



 光の柱は目前、しかし、激流となっている川が立ちはだかる。

「馬では渡れそうにないですね」

 ボールがつぶやく。

「橋はないのか?」

 一同辺りを見渡すもどこにも見つからない。

「うーん。別ルートを探すために引き返すか、さっきの村の住民に

 でも聞いてみるかの?」

「そうですね……」

 一同諦めかけたその時、光の柱の方から巨大な丸太が飛んできて、

 川を横断してこれまた大きな地響きをたてて倒れた。


「これはどういうことかの……?」

 皇帝は首をかしげた。

「精霊たちが歓迎してくれてるんじゃないですかね?行きましょ」

 少年は手綱を引っ張ったが、馬が嫌がったので降りて丸太にしがみつき

 進み始めた。


「ならば参ろうぞ」

 皇帝も丸太にしがみつき進んでいく。


「恐ろしい……けど仕方ないです」

 ボールも諦めて素直に丸太を進みはじめた。


「……え? みんないっちゃうのぉ?」

 ゴルボルは次々と進んで行く残りの兵士たちを前に立ち尽くした。

 川幅は結構ある。うじうじしていてはこちらに気付かないまま

 行ってしまうかもしれない。

 その上の巨大丸太には今何十人もの兵士たちがしがみついて

 進んでいる。何人のっても大丈夫♪

 ……いけるかもしれない。どこからともなく現れた丸太だ。ちょっとや

 そっとの巨漢で崩れるはずがない。

 よし、渡ってみよう。


 意を決し、ゴルボルは丸太にしがみつく。少し進んでみる。大丈夫だ。


 徐々にスピードを速めていく。すぐ下には激流が目と鼻の先だ。

 緊張で冷や汗が出てきた。大丈夫、大丈夫と言い聞かせていく。


 川も中盤。あと半分だ。前を見ると最後の兵士が岸に降り立っているのが

 見えた。

 急がなきゃ。おいてかれるよぉ~。

 ゴルボルがさらにスピードを上げた瞬間、


 ピキィ!


 嫌な音がした。さらにスピードを上げる。


 ピキィ!!


 また嫌な音がした。信じたくない。さらにスピードを上げる。冷や汗が出る。


 メキメキメキ――


 やばいやばいやばいやばいやばい――


 メキン!



 バキィィィィ!!



 決定的な音がしたと同時にゴルボルは川の中へ。

 圧倒的体重により圧倒的な丸太は崩落し、圧倒的な水圧により

 ゴルボルはセリフも吐けないまま、激流の一部となってしまった。



「ん? 一瞬頭が痛くなったような?」

「大丈夫ですか? 陛下?」

「あと何かを忘れているような……?」

「点呼はしっかりいたしましたよ」

「そうか。では向かおう」


 皇帝は光の柱を見上げた。

 昼だというのにこんなに目立つとは。

 本当に精霊の導きであればよいのだが……。


 光の柱はどうやらこの針葉樹林の中にあるらしい。

 一行はうっそうとした暗い森の中に足を踏み入れた。





 精霊の話

「うまいじゃん」

『こういうことなら任せて。でもいつも任せるのはちょっとやめて

 欲しいんだけど』

「わかった。次はあたしがやる。どうやったらあのイケメンだけを

 ここに連れてこれるのかな…?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る