陛下!交渉です!~スニジ海会談②~
「いやはや、敵方に本当に来てもらえるとは。しかも総督に」
皇帝はンカラプッテ東スニジ領総督の目をじっと見た。
ンカラプッテは何も言わず、見つめ返しているように見える。サングラスをかけているからよくわからないが。
スニジ海に浮かぶ船の上。どちらの勢力範囲にも属さない場所だから不意打ちをやられるという心配がお互いないだろうという皇帝の計らいでここで交渉を行っている。太陽は高く上がり、海面はキラキラと輝いている。臣下ボールは額の汗を袖で拭った。
ふとンカラプッテがサングラスをゆっくり外した。席を立ち、傍らに棒立ちになった。
やっぱり不意打ちを仕掛けてくるのでは……。ボールは心臓の鼓動が速くなってくるのを感じた。
一刻前、皇帝はボールの提案――念のために護衛艦を連れて行く――を跳ねのけた。
「安心しなされ。始まる前から余は敵とはいえ交渉に応じると言ってくれた大事な交渉相手にそんな失礼なことはしやせんよ。ましてや相手は余が任命した総督だからのう」
「裏切られた相手ですよ!」
「大丈夫、大丈夫」皇帝はクルクルパーマを手でかきむしった。
皇帝は心が広すぎる。ここで刺されてしまうかもしれないのに。そのボールの不安が今にも現実になろうとしている。命が危ない。ボールが皇帝の前に出ようと一歩踏み出そうとした瞬間、ンカラプッテが
「アリガトーゴザイマース!」
え?どういうこと?
ボールは理解できずに周りを見回すと、同じく皇帝を守ろうとしたらしい、ソーダロガやダカラナニが武器を手にしたまま硬直しているのが見えた。表情は唖然とし、目が両者泳いでいる。
「西スニジトー東スニジノ統一ヲー、陛下自ラオッシャッテイタダクナンテー、大変アリガタキ幸セデース」
ンカラプッテは目を輝かせ、首に付けていたギラギラ眩しいアクセサリーを外して皇帝に向かって捧げた。
「オ礼ニコレヲ差シ上げマース」
「アクセサリーはいいのじゃが」皇帝は微笑みを浮かべた。
「その代わりにこちら側についてもらえるかな」
「オフコースデース」
決まった。5分くらいしかたってないのに決まった。昨夜の失敗がうそのように面白いくらいすんなり決まった。
「やったぜ」ダカラナニがガッツポーズした。ンカラプッテもそれに答えるかのように手を振る。
「オ久シブリデース。アナタニモアクセサリーアゲマース」
「それはいらねえけど」
照りつける日差しの元、皇帝とンカラプッテが同盟を結ぶ文書に署名した。内容は以下の通り。
スニジの盟約―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1、東スニジ領はキメルノ帝国に復帰し、軍は皇帝軍と同盟する。
2、反乱鎮圧後、東スニジ領と西スニジ領の統一手続きを開始する。
3、アッシュム領は西スニジ領との連合を解消し、単一の領となる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ヤットスニジノ民ガ一ツニナルノデスネエ。何十年ブリデショウネエ」
「そんなに嬉しいことなんですか?」涙ぐんでいるンカラプッテにボールが尋ねた。
「エエ、モチロンデス。突然イナクナッタ前代皇帝パットキメルノニヨッテ都合ヨク無理矢理分離サレテカラ十数年。ミンナ統一ノ時ヲ待ッテオリマシタ」
そう言ってまたもや首からアクセサリーを外そうとしたンカラプッテが「アッ」と声を出した。
「ナラバ今ノ盟主様ニ通告シナクテハ!」
「誰だ?盟主ってのは?」ソーダロガは頭をかいた。
「メラマリィー領ノ姫君、リブ=メラマリィー様デス」
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