賢者とお姫様、戦闘と関係に決着をつける

『ぐぎゃぁぁぁぁ!』

 もはや異形と言っても差し支えないものと化したティーナが咆哮を上げながらこちらに襲いかかってくる。

 目の前で聖剣と聖剣がぶつかり合い、とてつも無い衝撃波が生まれた。

 俺はその衝撃波に吹き飛ばされそうになったところを足を地面に食い込ませグッと踏ん張る。



「マギ少し下がっていた方がいいですよ」

「はい、今ので痛感しました。俺にはこのレベルの近接戦闘についていける技術はありません」

「賢明ですね。バフだけは切らさないようにお願いしますね!」



 そういいノアさんはティーナに聖剣で斬りかかる。

「はぁぁ!」

『小童がその程度の力で我が壊れると思ったか!』

「そうは思っていませんよ。ですが剣を振っている方はどうですか!」

 ノアさんは聖剣と聖剣で打ち合うのではなく、相手の剣先を少しずらしティーナの首元に叩き込む。

『ガァァァァァ!』

 ティーナは意識を失い完全に沈黙した。あとはアルデバランの乗り移っている聖剣を壊しティーナを元に戻すだけだ。



 カランとティーナの持っていた聖剣が地面に転がる。

『おのれ小童がやってくれたな!』

「あら悪神とも呼ばれた神が地面に捨てられ喚いている姿は少し滑稽ですね」

『どこまでも小馬鹿にしおって。今我の真の姿を顕現させてやる!』

 アルデバランがそう発した途端、聖剣は黒い煙に包まれる。

 黒い煙が消えたあとに現れたのは2mはあろうかという大柄な男だ。これが恐らく悪神アルデバランなのだろう。

 アルデバランが顕現したあと呼応するようにノアさんの聖剣が白く光り輝く。



『チッ!そっちにも宿ってやがったか!アルカイド!』

『あるでばらん久しぶりだね?また悪さしてるの?』

『お前はまた100年前と同じように俺を邪魔するのか!?』

『邪魔じゃないよ。アルデバランにも人間の良さを知ってもらいたいだけ』

『それが邪魔だって言ってるんだろうがよ!』

 アルデバランが地面に落ちていた聖剣を拾い、ノアさんに向けて斬りかかる。いや正確にはノアさんの持っていた聖剣に向けてだが。



『ノア貴女のことはずっとみてた。今の貴女とそこの賢者が力を合わせればアルデバランを倒せるはず』

「力を合わせるですか?」

 ノアさんがアルデバランの攻撃をいなしながら聞く。俺もよくわからない。

『そう。アルデバランは口ではああ言ってるけど本当は愛に飢えてるだけ。だから貴女と賢者の愛の力を見せれば簡単に消える』

「なるほど。マギ力を貸してください」

 ノアさんが一旦アルデバランを吹き飛ばしこちらに駆け寄ってくる。

「え?今のでわかったんですか?」

「ええ。聖剣の持ち手を一緒に持って復唱してください」

「いいですけど......」

「名前は自分のものに変えてくださいね。『私ノア・アカリア・アーデストは病める時も健やかなる時もマギを愛することを誓います』はいマギもどうぞ」

「えっとそれって......」

「いいから早く!アルデバランが起き上がってしまいますよ」

「は、はい。『俺マギは病める時も健やかなる時もノア・アカリア・アーデストを愛すことを誓います』これでいいですか!?」

 そう聞いた俺に返事をしたのはノアさんではなく、アルカイドと呼ばれた神様だった。

『ええ。これでアルデバランはまたこの世界から消滅します。あれをみてください』

 アルカイドが指をさした先には苦しみながら光に包まれていくアルデバランの姿があった。

『俺はこんなところでまたお前に!!!』

 捨て台詞のように吐いたその言葉は賢者と聖女に届くことはなかった。



『これで私の今回の役割も終わり。また会いましょうね?ご夫婦さん』

 それだけを言い残すとアルカイドも光を伴い消えていった。

 少しポカンとしていた俺はノアさんに話しかけられ一気に現実へと引き戻される。

「あのそれでですねマギ......。式はいつにしますか?」

「あっ......。いえそれより先にティーナは」

「ティーナさんならアルデバランが消える時に一緒に」

「そうでしたか。それであれは本当に良かったのですか?」

「今回の一件を解決したことで地位も私と釣り合うものになるでしょうし、時間の問題でしたよ。これからよろしくお願いしますね。旦那様?」

「その呼び方はちょっと保留させてください」

 そんなことを言いながら俺とノアさんは帝国へと足を向けた。


———

次回最終回予定です。

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