賢者とお姫様、お互いの気持ちを伝える

 俺とエルはノアさんを追ってアルストール領まで来ていた。帝都から馬車で2日といったところだ。

「ノア、あそこにいるのかな?」

 エルが指を指す先にあるのは恐らくアルストール領で1番大きな屋敷だ。流石に帝都の城と比べると幾分か見劣りするが。

「多分そうだな。だけど俺達は招かれたわけじゃないし、正面からは入れないな....」

「師匠、手詰まりだね。エルがノアの居場所を探ろうか?」

「そういえばエルは索敵魔法が使えるんだったな。どのくらいの範囲まで使えるようになったんだ?」

「んーあの屋敷の中は全部見えるぐらい?」

 何故疑問系なのかはわからないがハイエルフの魔法に対する才能を俺は過小評価していたかもしれない。



 エルが索敵魔法を放つ。

「あそこの部屋にいるみたい。ただ毎日そこにいるかまではわかんないけど」

「あそこか。エルありがとうな」

 俺はエルの頭を撫でる。ノアさんのいる部屋は幸運にも窓がついていた。

「エル、あそこの窓から侵入したらどうなると思う?」

「ノアが怒るんじゃないかな?あとは警備の人が来たりとか?」

「だよなぁ....。皇帝陛下に親書でも書いてもらうんだったな......」

「そうはいっても選択肢はないと思うよ?」

「分かってるよ」

 正面からはほぼ不可能だろう。俺達は窓から侵入することにした。ノアさんのお叱りは後で受けよう。



 その日の夜、俺はエルの風属性の【フライ】で体を窓の高さまで浮かせてもらい、中にノアさんがいることを確認し、窓を叩き割る。

「マギ?何故ここに?」

「本心からのお返事を俺はまだ貰ってません!それを貰いに来ました!」

 ノアさんと3日振りに会話をできた安堵感が込み上げてくる。

 不意にノアさんの後ろから何かがさっと俺の前に出てきた。人の形をしているが明らかに人間離れした軌道に俺は警戒する。

「貴方がマギ様ですね?」

「はい、そうですが」

「お館様がお待ちです。こちらに」

 俺はどうやらこの瞬間、侵入者からお客様に変わったらしい。



 執事らしき人がコンコンと扉を叩く。

「入れ」

 そう重圧な声がする。皇帝陛下に近しいものを感じる。

「その男が?」

「はい、マギ様でございます」

「ははは、そうか。やはりきたか。あいつはやっぱり間違えないな」

「あいつ?」

 俺は思わず聞き返してしまう。

「君達が皇帝陛下と呼んでる彼のことだ。彼が君がここにきたら客人としてもてなして、ノアちゃんを返してあげろなんていうからさ」

「陛下がそんなことを?」

「まああいつも試したかったんだろうね。君がノアちゃんに人間として相応しいかを」

「俺試されてたんですね....。全然気が付きませんでした」

「そりゃそうだ。そもそも帝国の歴史に詳しくない君だからこそできたようなことだし」

「歴史ですか?」

「ああ。ここアルストール家はあいつの親戚だ。つまり僕はノアちゃんが赤ちゃんの時から知っている。そんな自分の娘みたいな子を嫁にできると思うかね?」

「なるほど....。まんまと俺は嵌められたわけですね」

「まあ、良かったじゃないか。僕とバトラーは退散するからあとは若いお二人でね」

 後ろを振り向くと結構怒っているであろうノアさんと目が合う。



「マギ、心配なのはわかりますが些かやり方が貴方らしくなかったですね?」

「それは申し訳ないです。ただ俺も焦っていて」

「私が結婚する可能性があったからですか?」

「ええ。改めて俺はノアさんが好きです。誰にも渡したくない。そういう気持ちが湧いてくるんです」

「前にもいいましたが、私は一国の姫です。それに釣り合う為には貴方はまだ地位が足りません」

 俺は少ししょんぼりする。

「ですが、貴方が私を選ぶというのであれば私は待ちましょう。私もどうやら貴方に惚れてしまっているみたいですので」

 凛とした顔で言い切ったノアさんは流石だと思う。俺には無理だ。

「わかりました。いつか釣り合う地位になった時に、もう一度気持ちを伝えさせていただきます」

 こうして皇帝陛下の試練を俺は乗り越えた。



「バトラー見たか?若いっていいな」

「お館様覗きはあまり推奨されたことではありませんよ。若さは羨ましく思いますが」

「だろ?ああ、そうだ。あいつに報告しとこうか」

「そうでしたね。皇帝陛下にことの顛末に伝えておきましょう」

 また皇帝陛下の中でマギの評価が少しだけ上がるのはここだけのお話だ。



——

たくさんの評価、星、ハート毎日本当にありがとうございます。2回目の更新では聖女サイドの話をやります!そちらもよろしくお願いします

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