賢者、お姫様の行き先を知る
「陛下、本当に良かったので?」
「宰相か。仕方のない判断だろう?あいつは継承権は第3位だ」
「確かに姉君を送り出すことができないのは理解していますが賢者に話もせずというのは」
「大丈夫だ。芯のあるやつなら、直にくるだろう」
謁見の間の扉が勢いよく開かれる。
そこには賢者とその弟子であるハイエルフの少女がいた。
俺はノアさんの気持ちを聞きたかった。仮に今回の政略結婚がノアさんの望む物であったのなら、俺はそれを受け入れる。ただそうでないのなら力尽くでもどうにかしたい。
「師匠、ノアは何処に行ったの?」
「エル....」
俺は弟子のエルに気を使われていることに気がつく。恐らく俺は今あんまりよくない顔をしているのだろう。
「エル、心配かけたみたいだな。俺は今からノアさんに聞きたいことがあるからそれを追いかける」
「エルは今回もお留守番?」
少し悲しそうに聞いてくる。思えばエルを何処かにつれて行ってあげたことの方が少なかったかもしれない。
「いいや、今回は一緒に行こう」
「うん!」
今まで見たエルの笑顔で1番眩しいものだった。
覚悟の決まった俺は謁見の間に来ていた。皇帝陛下を呼んでもらい話をする為だ。
バンと勢いよく扉を開ける。そこにはもう陛下と宰相がいた。
「よく来たな、マギ」
「陛下こそよく俺がここにくるとわかりましたね」
「当たり前だ。人の動きを理解できずして皇帝などという地位には座れぬ」
「勉強になります。さて、陛下も本題はお分かりでしょう」
「ノアの件であるな」
「はい。何故、私には何も知らされていなかったのでしょう?」
「人質に出す小娘の遊びに付き合っていた使用人に我が家の事情をわざわざ知らせる必要があるか?」
「いえそれは....。しかし私は彼女の近衛です。知る権利はあると思いますが」
「ふむ。確かにそうかもしれぬな。嫁ぎ先だけは教えてやろう。アルストール家だ」
「ありがとうございます」
それだけを聞くと俺とエルは謁見の間を飛び出した。
「若いのう」
「陛下、よろしかったんですか?あんな言い方をして」
「まあ良いじゃろうて。どう転んでも帝国に損はない。アルストール家はわしの叔父の家じゃしな」
「こんな試すようなこと何度もなさるといよいよ賢者とノア様に出ていかれますよ?」
「可愛い娘に出ていかれるのは困るな。ほどほどにするか」
「そうしていただけると私も助かります」
この一件を仕組んだ皇帝陛下はさぞかし楽しそうだった。宰相は毎度の事ながら心労で疲弊していた。もしこれで賢者が帝国を出ていくといえば、もしこれでノア様が帝国を出ていかれればと考えるだけでも恐ろしい。こういう悪戯はこれっきりにして欲しいものだ。
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