賢者、お姫様を失う

 俺は昨日の一件を思い出し、顔から火が吹きそうなほど恥ずかしくなっていた。

 今になって思うが、いくらなんでもあれはない。

「はぁ。なんで俺あんな事、ノアさんに言ってしまたんだろうか......」

 今からノアさんに謝りに行くべきなのか。悩みながらも足はノアさんの部屋へ向かっていた。



「ノアさん、今よろしいですか?」

「マギ!?ちょ、ちょっと待ってください!」

 パタパタと部屋を走り回る音が聞こえる。数秒後にガチャリと扉が開く。

「ど、どうぞ!」

「はい。お邪魔します」

 普段はしないやりとりをしてノアさんの部屋に入る。

「それでなんでしょう?」

「いえ。昨日のことを謝りたくて」

「謝るですか?」

「思わずノアさんに失礼なことを言ってしまったかなと」

 はぁとため息を吐いてノアさんがいう。

「マギ、あのですね。私は嬉しかったのですよ。周りは認めてくれなくても貴方は認めてくれている。それは私にとってはとても大きいものなんです」

「それは....ですけど俺は」

「ですけども何にもありません。貴方は私に力をくれたそれでいいじゃないですか?」

 確かにそうかもしれない。俺は少し自分勝手になっていた。



「思い上がりでした....すいません」

「謝らないで頂けると嬉しいです。ところでマギ、帝都に家は要りませんか?」

「わかりました。家ですか?」

 急にどうしたんだろう。俺は城に部屋も与えられているがそこを誰かが使うからということか?

「そうです。貴方に私からの日頃の感謝として家を渡そうと思っているのですが」

「何故、急にそんなことを?」

「いつか貴方が生涯大切にするパートナーを見つけた時に城では良くないでしょう?」

 その時の為ですよとノアさんはいう。

「でしたらノアさん一緒に住みませんか?」

 あれ?俺今とんでもないことに口に出さなかったか?

「マギ?今さっき私が言った言葉を理解していますか?生涯大切にしたいパートナーが見つかった時の家と言いましたよね」

「はい。ですからノアさんをお誘いしています」

「冗談はよくないですよ。私は一国の姫。貴方はただの貴族です」

「それはわかってます!でも俺はノアさんに....」

 俺の気持ちを言いかけた時、扉が開く。



「ノア様、お時間です。準備を」

「時間?どういうことですか?」

 俺は入ってきたメイドさんに質問する。

「申し訳ありません。守秘義務がございますので」

「いいではないですか。私はとある貴族様の元へ嫁ぐことが決まっていたのですよ。それこそマギに出会う前から。ですからここでお別れです」

「待ってください!ノアさん!」

 メイドさんにつれて行かれるノアさんを追いかけようとしたが足が動かない。これは土属性の妨害魔法か。

「何をするんですか。ミレイアさん」

「何とはなんじゃ。友人の門出を邪魔しようとした不届き物を止めたに過ぎぬ」

「ミレイアさんはそれでいいんですか?もしかしたら一生会えないかもしれない。そんなこと....」

「一国の姫というのはそういう物じゃろて。政略結婚なんて日常茶飯事じゃろ。納得がいかないのであれば皇帝陛下にでも進言してみることじゃ」


 俺は膝から崩れ落ちる。もう少し早く自分の気持ちに気づいていれば。もう少し早く何かをできれば。後悔だけが襲ってくる。

 ノアさんを幸せにするなんて俺にはやっぱり無理だったのだろうか......。

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