賢者とお姫様は勇気が出ない
「師匠おかえり!エル強くなった!」
ぴょんぴょん跳ねて抱きついてくるエル。
「うむ。この子は素質がやはり良いと思うのじゃ」
「そうなんですか?魔法は結構簡単に扱えるようにはなってましたが」
「良いか?お主らは規格外だから言っておくが、風属性の索敵魔法なんて1日そこらで覚えられるもんじゃないんじゃ」
「え、そうなんですか?」
「当たり前じゃ!1日そこらで使えたら魔導書なんていらんし師匠という存在も要らんじゃろうが!」
確かに言われてみるとそうだ。ノアさんは生まれた時から聖属性が俺は気がついたら使えるようになっていた。異質といえば異質だろう。
「それでマギ聖剣のことでしたね」
俺はあの後ノアさんの部屋にお邪魔していた。
「はい。どうして世界に1本しかないとされている聖剣がノアさんの手元にあるんですか?」
「それは簡単な話です。昔聖剣は2本で1本だったんですよ」
「2本で1本?」
「はい。初代の勇者はそもそも1人でした。仲間も1人しかおらず、生涯2人で旅をしたと言われています。しかし後世になるにつれ、勇者の適性を持つものが複数現れはじめたのです」
「それは聞いたことがある気がします。帝国にも勇者候補がいたと」
「そうです。聖剣は世界に勇者が2人いることを確認すると2本に割れたんですよ。片方は剣技を片方はある属性の魔法を授けたと言われています」
ある属性と聞いて俺は思わずノアさんの方をみる。
「まさか?」
「ええ。そのまさかです」
「つまりノアさんがそのもう1人であるというわけですか」
「まあそういうことになりますね。ただ私は選ばれなかった方の勇者とでもいえば良いのでしょうか?」
「選ばれなかった?」
「はい。勇者と認められ聖剣が仮に自身の手元に来たとしてもそれを民衆が認めるかはまた別という話です」
少し悲しそうな顔をしながらノアさんはそんなことを言う。ノアさんの代わりにあんな男が選ばれたと考えると中々度し難い。
「ノアさん。ノアさんは俺の中では勇者ですからね」
「マギ?急に何を言い出すんですか?」
「あっいえ、そのノアさんの顔があまりに悲しそうに見えたので俺だけはノアさんを本物の勇者だと思っていることを伝えたくて。両方見てきた俺だからそう思うだけかもしれませんが....」
「ふふ、それはとても嬉しいですね。もしかしたら私は貴方の勇者になる為に聖剣を授かったのかもしれません」
「それは神様も粋な計らいをしてくれたものですね」
「ええ、本当に」
少し小っ恥ずかしいことを言い合う俺とノアさんはお互い顔がリンゴのように赤かったに違いない。
俺は恥ずかしくなり、ノアさんの部屋を退散してしまった。
「ノア、お主やはり勇気が足りんなぁ」
「ミレイアいつから見て!?」
「無論、初めからじゃ。『私は貴方の勇者になる為に聖剣を授かったのかもしれませんね』うむいい台詞じゃな」
「そ、それは!でもあんな雰囲気にするマギも悪いと思いません?」
「あやつはあやつでお主と同じで勇気がないんじゃよ。数日前まで平民だったわけだし王族に軽率に気持ちを伝えることなんて出来なくて当然じゃ」
「そういうもんなんですかね?」
「そういうもんなんじゃ」
お姫様とエルフの王女様の恋バナは始まったばかりだ。
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