賢者、貴族にされる
俺は今日もノアさんの部屋を訪れていた。
いつもはノアさんしかいない部屋に珍しく来客がきている。
「あらマギいらっしゃい」
「お取り込み中にすいません。すぐ出て行きますので」
「マギ、来客のよく顔を見てみるといいですよ」
俺は来客の顔をじっと覗き込む。
「もしかしてミレイア様ですか?」
「ふむ。あの馬鹿が渡した眼はきちんと機能しとるようじゃな」
「ミレイア旧友に向かって馬鹿とは些か失礼ではないですか?」
「いいんじゃよ。人間に適合するかもわからん眼を与えおってこれでマギが失明しとったらどうするつもりじゃたんじゃ」
「そんなリスクがあったんですか?」
「低い確率じゃがの。じゃがマギはきちんと適合した。ならまあ良いのじゃ」
「ははは、それ良かったです。ところで何の話をされてたのですか?」
俺は苦笑いをしながら会話を逸らす。
「ああ、王国の現状について聞いておったんじゃ」
「そういえばノアさんって男装して王国にいましたね」
「ええまあ。その時の情報をエルフの王女様に共有してたというわけです」
「お話は終わったんですか?終わってないなら席を外しますが......」
「よい。もう大体はわかったからの。ところでお主ら2人この前温泉に行ったそうじゃな?」
「はい。行きましたよ」
「どこまで進んだんじゃ?」
「どこまで進んだとは?」
「ほれキスとかそういうな?」
「あの俺とノアさんは別に付き合ってないんですけど」
「なんじゃ?まだだったのか?」
「まだってなんですか。ノアさんが俺を好きになるわけないでしょう」
俺はこの話題が出てから一度も話していないノアさんの方を向き、同意を求める。
「え、ええ!一国の姫が近衛に恋するなどそんなことはあり得ません!」
「ほらノアさんもこう言ってますよ?」
ミレイアさんは黙って首を振り、ノアさんの頭をポンポンと撫でて部屋を出ていった。
「マギあのですね。あれはミレイアのタチの悪い冗談ですのであまり間に受けないでいただけると」
「ええ、わかってますよ。俺は貴族ですらないですしノアさんと恋をするなんて身分知らずのことはできません」
「そう...ですよね......」
ノアさんは明らかに凹んだ様子で部屋を出て行った。ああは言ったが俺はノアさんに好意がないわけじゃない。ただ身分が違いすぎるだけだ。身分の違いは努力では決して埋まらない。
部屋を出た廊下で向こうに見えていた唐突に皇帝陛下に声をかけられる。
「マギお主、貴族になる気はないか?」
「どういうことですか?」
「お主温泉付近にいるレッドドラゴンを正常化するのに尽力したとノアから聞いた。あれが暴れていたら帝国はもうなかったかもしれぬ」
「あれそんな災害だったんですか......」
「ああそうだ。だからこその貴族位の授与だ」
なんだか都合が良すぎる気もするが貴族になれるのであれば悪くはないだろう。お金も国から貰えるわけだし。
「わかりました。謹んでお受け致します」
「うむ、よい。儀式の日付は追って伝える。それまで口外はせぬようにな」
「わかりました」
こうして俺はこの日から貴族になった。領地を持たない宮廷貴族だが。
「ノア気持ちはわかるが中々無茶苦茶するのう」
「いえ、そんなことはないと思いますよ。私は生まれてこの方帝国に尽くしてきたわけですし、ノアだって帝国に来てからかなりの活躍をしています」
「ノアがそれで良いのならいいんじゃがの」
「それよりマギのことについて聞いてください」
お姫様と女王の茶会は夜まで続いたそうだ。
———
朝の投稿で何かわかりませんがとても伸びていてびっくりしました。これからもこの作品をよろしくお願いします!
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