聖女、暗殺者を引き入れる

「ラナさんなんの御用でしょうか?」

 ラナに呼び出された聖女はラナの部屋に来ていた。ただノックしても返事はなく御手洗いにでもいっているのだろうと思い、中で待たせてもらうことにする。



 カランと聖女の着る服が投擲物を弾く音がした。

「襲撃者......!?」

「襲撃者とは酷い言い方じゃないですか。ティーナさん」

「ラナさん......?これは一体?」

 状況が理解できていない聖女にもう一度投擲物が飛んでくる。

「毒をつけても効かないとは聖女様は中々いい装備をお持ちですね」

「なんのつもりですか!私は聖王国の聖女ですよ!ことと次第によっては」

 そこで聖女は言い淀む。部屋から出ることも部屋の声が外に漏れ出ることもないように結界が張られていたからだ。

「ことと次第によってはなんですか?私どうなっちゃうんでしょう」

 全く怖がっていない声色でラナさんが答える。この人は本気で私のことを殺そうとしている。



「ラナさんもしかして賢者のことで......」

「よくわかってますね?」

「そのことでしたらお話があります。少し聞いてくださりませんか?」

「嫌です。どうして今から殺す人の言い訳なんて聞かないといけないんですか?」

「わかりました。では私が勝手に話します」

「随分と自分勝手なんですね。もっとお淑やかかと思ってましたよ」

「お淑やかなだけではこの地位にはこれませんから」

「あらそうなんですね」

 また武器が弾かれる。これで3回目だ。身代わりの羽衣は後2回だけ攻撃を防げる。その間に説得をするしかない。


「まーた弾かれちゃいましたね」

「はは、どうやら運がいいらしいです」

「運ですか。面白い」

「さて貴方は大方この国に雇われた暗殺者で、勇者パーティー全員の首を賢者にお詫びとして持っていく。そんな筋書きでしょうか?」

「貴方達にはれっきとした罪がありますからねぇ」

「大方帝国の皇帝陛下を侮辱したとかそういうものでしょう?」

「貴女まさか......?」

「ええ。帝国に赴いた際に気がついておりましたよ」

「貴女は余程頭が回るらしい。やっぱりここで殺しておいたほうが先の為になる」

 もう一度武器を弾く。あと1回だ。


「ええまあ。なんなら勇者の弱点も教えて差し上げましょうか?勇者は普通の殺し方をしても死にませんよ」

 私は最後の切り札を切る。これで食いついてこなければ仕方ないがここまでだ。

「その話は本当なのか?」

 よしと私は心の中でガッツポーズをする。

「本当ですとも。それには私の力が必要不可欠ですが」

「いいでしょう。話を聞きます」

 ラナさんが戦闘態勢を解く。私はなんとか生き残ることができた。



「まず誤解を解かねばなりません。私は賢者の追放には関わってないんですよ。勇者から相談もされていません」

「聖女様はさっきから思っていたことですが勇者達の前にいる時と随分性格が違いますね?」

「こちらが素です」

「それは驚きですね」

「貴女も性格が変わってるでしょうに。まあいいです。私は追放されるという話をミラから聞いた時に、一度それに同調することにしました」

「何故です?」

「マギさんじゃ優しすぎたんですよ。偽物の勇者を殺すには」

「あの男が偽物?通りで......」

「通りで弱いと思ったですか?」

「ええ。今日拍子抜けだったんですよ」

「そういうことです。私に課せられた使命は偽物の勇者の殺害なわけなんですよ」

「つまり我々は協力できると?」

「はい。ついでにミラの首が欲しいならあげますよ」

「先程言っていたことを聞きましょうか。偽物なのに普通に殺しても死なないのです?」


「問題は武器にあります。あの武器はエクスというものであらゆる死という概念を退けると言われています」

「それはどうやって殺せばいいんです?」

「武器を取り上げればいいのです。ただ勇者は寝る時も武器を持って寝ています。そこから取り上げ、なおかつ殺すというのは至難の技でした。貴女が来るまでは」

「つまり私は殺し、聖女様は武器を取り上げるという役割分担ができるというわけなのですね」

「ええ。私達はいい協力関係を築けると思うのですがいかがですか?」

「いいでしょう。貴女と私で勇者を殺す。それで行きましょう」

 こうして聖女は暗殺者を引き込んだ。


———

昨日は星やブクマたくさんありがとうございました。今回は少し長くなったので2回目の更新で賢者視点をやろうと思っています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る