賢者、褒美として眼を得る

 レッドドラゴンが見える位置まで来た俺とノアはため息をつく。

「師匠とノアどうしたんだ?」

「いえ恐らくマギも同じことを考えていたと思うのですが」

「はいそうですね。あれは黒化してます」

 黒化というのは知能のあるモンスターが意識を失い暴走してしまうことだ。

 普段滅多に起こり得ないことなのだが、最近帝国で凶暴なモンスターが増えている。そのこととも関係しているのかも知れない。

「で師匠その黒化っていうのはどうやったら戻せるのだ?」

「またこれもノアさんの聖属性の力を借りる必要があります」

「そうなりますね。ただ前のように剣にのせて切り裂くというわけにもいかないのが厄介ですが」

 そうノアさんは全てを万能にこなせるわけではない。魔法を使うのがとても苦手なのだ。


「マギ力を貸してくれませんか?」

「力を貸す......?ああなるほど」

「はいマギほどの魔法使いなら使えると思いました」

 ノアさんが言っているのは無属性魔法『リンケージ』だ。他人の魔法発動を補助することができるという珍しい魔法だ。この世界に使い手は5人といないだろう。


「ノアさん手を」

「はい」

『リンケージ』を発動する為には術士と補助をする人間が接触する必要がある。

 俺はノアさんの魔力と自分の魔力を同調させていく。

「これが聖属性の魔力ですか」

「もう同調が済んだのですね」

「はい。ただ問題がありまして」

「使ったことがない属性だから発動まで時間がかかるですか?」

「ええ。ですから少しだけエルに時間稼ぎをしてもらわないといけないんですけど」

 エルには少し荷が重いかも知れない。

「エルやってくれるか?」

「師匠が望むならエルは頑張るよ!」


 エルが時間稼ぎをしてくれている間に俺は解析を進める。

 1つわかったことは聖属性の根源は光だ。光属性ではない。人の希望という名の光。

「聖属性の本質はそういうものだったんですね」

「ええ。本来は勇者が授かる力です。それこそ魔王を打倒する為の」

「あれ?それってノアさんが......」

「それは想像にお任せしますよ。少なくとも今の私はただの帝国の姫ですから」

「そうですか。とりあえず準備はできました」

「では『クロスオーバー』!」

 ノアさんの体から光が放たれる。

「エル!ありがとうもう大丈夫だ!」

「師匠わっかりました!」

 エルがこちらに戻ってくる。それを追ってくるレッドドラゴンに『クロスオーバー』が直撃する。


『ぐおおおおお!』

 レッドドラゴンの叫び声が聞こえてくる。

『我は一体何を......。もしかしてお主らが救ってくれたのか?』

「そうなりますね」

『そうか。ではお主らの名前を聞いておこう』

「ノア•アカリア•アーデストです」

「マギだ」

「エルはエルだよ!」

『はっはっはっ!面白い組み合わせだな。帝国の姫に賢者とハイエルフか』

「何故私達の素性を?」


『伝わっておらぬのか?我の眼は全てを見通す千里眼だ。お主らの今の状態その未来まで見ることができる』

「なっ!」

「伝説の千里眼ですか......。お噂は聞いていましたがまさか実在したとは」

『お主の精霊の義眼も同じようなものじゃろうて。それでだ。お前達誰かにお礼として千里眼の一部を使えるようにしてやろう』

「一部なのか?」

『ハイエルフの娘よ。我の千里眼を全て使えるようにすることも可能じゃ。しかしそうすると死ぬぞ?』

 とんでもないプレッシャーがレッドドラゴンから放たれる。


「エルさん千里眼は全てを見通せます。そこに取捨選択は存在しません。ただそれでは私達は耐えられないのですよ」

『帝国の姫よく勉強しているな。その通りだ。お主らでは精神がおかしくなってしまう』

「レッドドラゴンのおじさん優しいんだね?」

『仮にも命を救われたのだ。それを仇で返すことを竜種はしない』

 竜族は誇り高い。そういうことを聞いたことがある。

「で、褒美の件ですが是非マギに」

「え!俺なんですか?」

「貴方が1番適任なのです。今回は受け取っておいてください」

「わかりました。エルもそれでいいのか?」

「ノアがいうならそれでいいよ!」

『話はまとまったようだな。では賢者よ目をつぶれ』

 こうして俺は千里眼の劣化である鑑定眼を貰った。


———

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