賢者、温泉へ向かう

 俺は少し実験をしに帝国郊外の森へきていた。

 理由は単純で虹蛇を倒した時の魔法の威力に疑問を覚えたからだ。勇者パーティーにいた頃はそれもあって攻撃手段が乏しく悩んでいた。

「とりあえず水の初級魔法を使ってみるか」

『ウォーターボール』

 これは小さい水の球を出し飛ばすという魔法だ。

「あれ?なにかでかいな......」

 普段色々なところで目にする『ウォーターボール』より3倍以上の大きさになっていた。


「マギ面白いことをしてますね」

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。

「ノアさんこんなところでどうしたんですか?」

「いえマギを迎えに行くようにお父様に言われたので探していたんですよ」

「なるほど。俺は何故か威力が上がった攻撃魔法について自分で発動してみて考えてたんです」

「その件ですか。どうしても知りたいなら教えられますが多分嫌な気分になりますよ」

「理由を知ってるんですね。それは勇者パーティーが関係あるんですか?」

「お察しがいいですね。その通りです」

「なら聞かせてください」


「いいでしょう。実は私が貴方と出会った頃貴方は呪われていました。恐らく呪いのアイテムか何かを過去に数年持たされていたのでしょう」

「その呪いの効果が魔法の威力減少であると?」

「ええ私はそうだと踏んでいます。勇者パーティーを追い出される時聖女から怖いと言われたりしませんでしたか?」

「そういえばそんなことを言われた気がします」

「それは呪いを見抜いていたのでしょう。伝えてもどうしようもないから伝えなかったのでしょうが」

「しかしいったい誰がそんなことを」

「勇者じゃないですか?」

「ゲイランは確かにクズですがそんなことをしてまで俺を追い出したい理由がないと思うんです」

「それはどうでしょうか。お話を聞いている限りパーティーの女性を自分のものにしたいという欲を感じます。つまり男である貴方が邪魔だったとは考えられませんか?」

「そんなことは......。いえあるかも知れません。勇者パーティーに会ってみないと真相はわからないですが」

 真相はまだわからないが仮にゲイランがやったとしたら俺は許すことはできないだろう。また会うことがあれば真相を聞かねばならない。


 次の日俺はノアさんとエルを誘い温泉に来ていた。

「温泉というものは本で読んだことはありましたが本当に変な匂いがするのですね」

「エルこの匂い結構好きかもしれない!」

「硫黄という匂いなんでしたっけ」

 詳しいことは知らないが独特の匂いがしている。

 ただ今回の目的は観光は半分だ。もう半分はここに居座るモンスターの討伐だ。


「ここにいるモンスターって確かドラゴンなんですよね?」

「ええ。しかも噂ではレッドドラゴンなんだとか。興奮しませんか?」

「いえ全く。むしろなんでレッドドラゴンと戦いに来たんですか」

「えるさんの成長を確かめるためですよ。話によるとここにいるレッドドラゴンは話ができるらしくてですね。丁寧にお話しすれば色々とお手伝いしてくれるらしいんです」

「へーそうなんですね」

「エルもしかして試されるの?」

「そういうことになるのかな。エルは確実に強くなってるから存分にレッドドラゴンさんにぶつけてみるんだぞ」

「わかった!」


 俺達はレッドドレゴンが住むと言われる火山の山頂付近まできていた。

「途中に出てくる魔物がやけに強くありませんでしたか?」

「マギの言う通り強い魔物が多かったですね。本来はそういう魔物はレッドドラゴンがどうにかしているはずなのですが」

「ノアさん俺すごく嫌な予感がしてるんですけど」

「奇遇ですね私もです」

 風属性の索敵魔法を使っていたエルがこんなことを言い出す。

「山頂の方で真っ黒に染まったドラゴンみたいなのがいる!」

 どうやら俺達の嫌な予感は的中したみたいだ。

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