第25話「農場の戦い」
レナはミーティアの足元に隠れ、そっと農場の様子をうかがい、自身を狙っている銃口が無いことを確認すると、姿勢を低くして全速力で走り、農場の建物の壁へととりついた。
すぐに銃を構えながら周囲を警戒し、自身の見える範囲に敵がいないことを確認すると、今度は耳を澄ませて、少しでも状況を確認しようとする。
銃声は、相変わらず散発的に聞こえてくる。
どれも、実弾タイプの拳銃の音で、中性子ビームの発射音ではなかった。
宙賊が実弾式の武器を使っているという可能性もあったが、聞こえてくる銃声は全て、おそらく同じ拳銃からのものであることを考えると、その銃声は、アウスが宙賊に対して反撃している音なのだろう。
アウスは自分の家という地の利を十分に活用して、宙賊たちを迎え撃っている様だった。
だが、農場へと侵入した宙賊たちは、20名にもなる大人数だった。
アウスがすでに何人も倒している様子だったが、いつ、どこで宙賊と遭遇するか分からない様な状況だった。
レナは、ゆっくり、静かに呼吸をしながら、じっと、耳を澄ませる。
微かに、足音のようなものが、すぐ近くで聞こえた。
建物の角からその足音の主が出てきた瞬間、レナはその相手に向かって銃口を向ける。
レナに銃口を向けられていることに気がついたウィルは、小さく「ぅわっ!? 」と悲鳴をあげて固まった。
そんなウィルの様子を見て、レナはほっとして表情を和らげる。
「ウィルくん、頭下げて! 」
だが、その次の瞬間には、レナはウィルにそう叫びながら引き金を引いていた。
レナが放った2発の中性子ビームは、ウィルの向こう側に現れた2人の宙賊の頭部を正確に撃ち抜き、悲鳴をあげる間もなく絶命させる。
魂を失った肉体が力なく倒れこむ音で状況を理解したウィルは、レナの方を振り向き、引きつった様な笑顔を見せた。
「す、すごいね、お姉さん。いっ、1発ずつで仕留めたんだね」
その声は、恐怖と緊張からか震えている。
無理もない。
レナはそう思って、ウィルに同情した。
レナだって、初めて人間を撃った時は、怖かったし、緊張した。
撃ったのは自分の身を守るためで、そうでもしなければ自分の方が宙賊に殺されるか、あるいは捕まって「商品」になるかという状況で、レナは初めて相手の命を奪った。
ウィルは育ての親であるアウスを救うために無我夢中で飛び出してきたが、今になって、自分が今、どんな場所にいるかを理解し始めているのだろう。
「大丈夫。私が、キミも、アウスさんも守ってあげる」
レナはウィルを少しでも落ち着かせようと笑顔を作ると、そう言って、ウィルを自身の背中にかばう様にした。
「キミは、私の後ろを見張ってちょうだい」
「わ、分かった」
同時に、レナはウィルにも役割を与えた。
例え、怖くて緊張していたとしても、アウスを助けるという目的のために自分が何をするべきなのかが明確に分かってさえいれば、少しはまともに動けるからだ。
ウィルは、ほんの少しだけだが、落ち着きを取り戻した様だった。
レナは感覚を研ぎ澄ませ、敵の位置に気を配りながら、農場の中を慎重に進んでいった。
足音をできる限り忍ばせ、敵に情報を与えないよう、逆に、自分は少しでも多くの情報を得られるように気を配る。
また、アウスの拳銃の銃声が鳴り響く。
直後、レナたちのすぐ近くに、撃たれた宙賊が、家に隣接して建っていた納屋の屋根の上から落ちてきた。
大胆というか、無謀というか。
高いところなら周囲を良く見渡せるとでも思ったのだろうが、周囲がよく見えるということは、敵からもよく見えるということでもあった。
ウィルが宙賊の死体から広がる血だまりを踏まないよう、無言のまま足をばたつかせている中、レナは宙賊が撃たれたであろう方向を計算し、アウスのいそうな位置を絞り込んだ。
「ウィルくん、こっち」
レナは宙賊の死体を前に戸惑っているウィルにそう言うと、農場の扉をそっと開いて、中に滑り込む様にして入り込んだ。
アウスは恐らく、家の2階にいたはずだ。
おそらくすでに移動しているだろうが、少なくとも、まだ家の中にいるだろうということは分かる。
レナとウィルが家の中に忍び込むと、2階へと続く階段を、そろりそろりと登る1人の宙賊の姿が見て取れた。
どうやら先ほど納屋の上で撃たれた宙賊の位置からレナと同じ様にアウスの居場所を計算し、その場所へと向かっている様だった。
今なら、殺すことなく、拘束できる。
レナは賞金稼ぎであって、殺し屋ではなかった。
可能であれば、宙賊といえども殺さずに捕らえ、裁判によってその罪を明らかにすることこそが、自分の仕事だとレナは思っている。
それに、あの宙賊を捕虜とすることができれば、いろいろと情報を聞き出せるかもしれなかった。
「動かないでください」
レナは階段を上る宙賊の背後へ出ると、そう言いながら、銃口を向けた。
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