第23話「共闘」

 ウィルが言っていた「岩場」は、すぐ近くにあった。

 自然に大地が風化することによってできた自然の岩場で、侵食されることなく残った岩石がビルの様に林立している場所だった。


 そこなら、確かにMFでも隠れることは十分にできそうだった。


レナは被弾した機体を必死に操縦するウィルを援護しながら降下し、ウィルがアレスを着地させて岩場に身を隠すのを確認すると、自身もその近くにミーティアを着地させて岩場の影に隠れた。


 マレフィクス宙賊団の10機のMFは、中性子ビームを乱射しながら、岩場の外へと次々と着地する。

 レナとウィルが隠れた岩場は宙賊たちが放つビームを防ぐことができたが、絶え間なく射撃されるビームで、2人はほとんど身動きが取れなくなってしまった。


 宙賊、宙賊と言われているが、マレフィクス宙賊団は無思慮な集団ではなく、案外、統制が取れている様だった。

 あのままレナとウィルを追いかけて岩場に直接乗り込んできてくれれば、岩山を障害物として宙賊たちを分断し、各個撃破を狙うこともできたのだが、敢えて岩場に入らずその外側に展開し、宙賊たちは数の有利を生かしている。


 宙賊のMFたちは、6機が岩場に向かって中性子ビーム砲を乱射し続けてレナとウィルをくぎ付けにし、残りの4機が2機一組になって岩場に接近するという戦法を取った。


 6機からの制圧射撃でレナもウィルも身動きが取れず、その間に回り込んで、レナとウィルに対してそれぞれ2機がかりで決着をつけようという作戦らしい。


 その意図を理解したレナは、舌打ちした。

 無理に動こうとすれば敵の攻撃を受け、かといってこのまま待っていては、勝ち目の薄い2対1での接近戦を強いられてしまう。


 何か対応を考えなければ、終わりだ。

 しかし、レナが取れる選択肢は少なく、悩んでいられる時間もほとんどなかった。


「ウィルくん、そっちは、大丈夫? 」

≪何とか。もう飛べないけど、まだ戦えるよ≫

「そう。接近戦の経験はあるの? 」

≪格闘戦はそれなりに。じーちゃんに教わった≫

「あら、アウスさんは、ずいぶん教育熱心だったのね」


 レナは少しでも気持ちを落ち着けるためにそう軽口を言いながら、緊張で渇いた唇をぺろりと舌でなめる。


≪お姉さん、どうする!? 何か、手はある? ≫

「残念だけど、2機だけじゃ、ね。……どうしようもないわ」


 レナの返答に、ウィルはしばらくの間、無言になった。


≪ごめん、お姉さん。こんなことになるなんて≫


 それから、返って来たのは謝罪の言葉だった。

 そのウィルの言葉を、レナは鼻で笑い飛ばす。


「はっ! まだあきらめるのは早いわよ。とりあえず、敵は2機1組で飛びかかってくるから、それを料理すればいいのよ。10機同時に相手にするよりは、マシでしょ? 」

≪……、そうだね。了解≫


 もちろん、勝てる見込みなどまるでなかったが、絶望して取り乱しても、何かが変わるわけでは無い。

 震えそうになる自分を必死に抑えながら、戦うしかなかった。


 ミーティアの脚部に装備されている振動センサーが、接近してくる宙賊のMFを捕捉して、システム上にそのおおよその位置を表示してくれる。

 二手に分かれた宙賊のMFは、慎重に接近を続けている様だった。


(隙はなし、か……)


 レナは、そう思いながら一度深呼吸をし、覚悟を決めた。

 敵が足並みを乱して接近してくるのならまだ対処の仕様があったのだが、連携しながら、タイミングを合わせて一斉に襲いかかろうとしているせいで、つけ入る隙が無かった。


 レナにできることと言えば、自身の技量とミーティアの性能を信じて、一か八かで2体1の接近戦に勝利することに全てを賭けることだけだった。


 2年前、家出同然に宇宙へと飛び出した時には、こんな運命が待っていることなど、少しも想像していなかった。

 レナには才能があり、その才能を引き出すために最高の機会を与えられ、レナ自身、努力を怠ったことなどない。


 そんな自分であれば、どんな困難も乗り越えられる。

 そう思っていたのに、何の縁もない辺境の惑星で、最後を迎えるかもしれないとは。


(一宿一飯の恩返しとしては、少々、気前がいいかしらね)


 レナは皮肉げな笑みを浮かべ、接近を続ける宙賊のMFに反撃する機会をうかがう。

 状況は絶望的ではあったが、最後まで抵抗を諦めるつもりは少しもなかった。


 唐突に、何かが爆発したらしい振動が辺りに広がり、6機の宙賊のMFから放たれていた中性子ビームの乱射が止まったのは、その時だった。


 同時に、全周波数に向けて発せられる、叫び声。


≪ハッハァ! 銀河を駆ける賞金稼ぎ、毒蛇(ヴィーペラ)団、ただ今参上! ≫

≪ひーっひっひっひ! 宙賊さんよぉ、背中ががら空きだぜぇ! ≫

≪オラオラオラオラぁ、何だな! ≫


 それは、「俺たちは降りる」と言って、この惑星を去ったはずの毒蛇(ヴィーペラ)団の3人組の声だった。


 レナとウィルに対し制圧射撃を行っていた6機の宙賊のMFの後方から強襲した毒蛇(ヴィーペラ)団の3機は、たちまちのうちに宙賊の6機を撃破した。


 その攻撃に、レナとウィルが隠れている岩場にじりじりと接近していた、残り4機の宙賊のMFたちも足並みが乱れる。

 その瞬間を、意識を集中させていたレナは見逃さなかった。


「ウィルくん、今! 」


 レナはウィルにそう叫ぶと同時に岩場から飛び出し、毒蛇(ヴィーペラ)団の奇襲に気を取られていた宙賊たちに、至近距離から中性子ビームの連射を浴びせた。


 至近から直撃を受けた宙賊のMFは一瞬で破壊され、レナがもう一方の宙賊のMFへと銃口を向ける時には、すでに決着がついていた。

 レナの言葉に即座に反応したウィルのアレスが、最後の2機を格闘戦で撃破していたからだ。


 レナは、(勝った! )という喜びと、驚きを込めて、口笛を吹く。


「ひゅぅ! ウィルくんも、やるじゃないの! 」

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