第22話「赤い空で」
アレフィクス宙賊団と戦うことを決めたレナは、すぐさまウィルのMFであるアレスから降りて、ミーティアの発進準備をするためにベルーガへと駆け寄った。
「おかえりなさいませ! ご主人様」
「ただいま、デア! でも急いでいるの! すぐにミーティアを発進させる。それから、予備の武装も使うから右舷側の格納庫も開いて! 」
「了解しました。して、その後は、デアもご主人様を援護するということでよろしいでしょうか? 」
「そうね、そうしてちょうだい! デアは、宙賊の揚陸艦を牽制(けんせい)して! 」
「承知しました! デアのいいところ、ご主人様にお見せいたします! 」
レナの指示で、ベルーガの格納庫のハッチが開かれる。
レナはベルーガの格納庫に飛び込む様に駆け込み、ミーティアのコックピットハッチを開いて操縦席に乗り込みながらウィルと通信を繋ぐ。
「ウィルくん、ベルーガの右舷側の格納庫に予備の武器があるから、それを使って! 」
≪了解、お姉さん。でも、僕の機体でも使える? ≫
「FCSはついてないんだっけ、その機体? でも時間がないから、武器についている照準システムを使うしかないわね。旧世代機でも、人類連合の機体なら規格に互換性があるはずだから! でも、一撃必中より、ばらまける方がいいだろうから、マシンガン系の武器を使ってちょうだい! 」
≪ありがとう、お姉さん。マシンガンって……、多分、これだね≫
そう言ってウィルが持ち上げたのは、銃身が上下2連になっている、57ミリ口径の中性子ビームを発射するマシンガンだった。
ビームの収束機が短く威力は控えめで射程も短いが、とにかく上下2連の銃身から連続してビームを発射できる、近距離で使いやすい武器だった。
ウィルはそれをアレスの両手に装備させ、「じーちゃんが心配だから、先に行くよ、お姉さん! 」と叫び、ベルーガから距離を取ってからブースターに点火して農場へと向かった。
「ああ、もう、もどかしいわね! 」
レナはミーティアのコックピットハッチを閉め、バイザーデイスプレイを頭に被りながら機体のシステムを立ち上げつつ、イライラして思わずそう口走っていた。
ミーティアのシステムの立ち上がりは新世代機らしく早いのだが、今は、それすらも遅く感じられた。
やがて機体のシステムが正常に起動し、レナのミーティアは立ち上がる。
レナは数秒思考したのち、90ミリ口径の中性子ビームを発射する拳銃タイプの武装を選択し、ミーティアの両手に装備させると、ブースターに点火して慌ただしくウィルの後を追った。
ライフルではなく拳銃タイプを選択したのは、その大口径で近距離での破壊力が高いだけではなく、ライフルよりも射程が短いために、戦闘による二次被害を惑星上にあまり出さなくて済むだろうという考えからだった。
赤い空に浮かび上がった白い機体、ミーティアは、飛行をサポートするための補助翼を展開し、加速した。
レナのバイザーデイスプレイ上に、ミーティアのセンサーが捉えた情報が次々と表示されていく。
マレフィクス宙賊団のMFと歩兵部隊はウィルの農場へと接近しつつあり、その上空には支援のために揚陸艦がとどまっている様だった。
そして、レナより先行したウィルのアレスは、すでに宙賊のMFとの交戦距離に入っている様だった。
サンセットの赤い空に、中性子ビームの閃光がいくつも生まれる。
宙賊のMFに対し急接近したウィルが、装備した武装の照準システムを使用しながら攻撃をしかけた光だった。
「それじゃ、まだ遠い、遠いよ、ウィルくん! 」
レナは、その光景を目にしてもどかしそうにそう叫んでいた。
ウィルが装備していった武装はマシンガンで、接近戦で威力を発揮するタイプのものだった。
それを遠くから撃ったのでは、命中しても大きな損傷を与えることなどできないし、そもそもアレスにはFCSが装備されていないから1発も命中しなかった。
射撃を命中させるためには自機と目標との位置関係を把握し、目標の未来位置に向けて射撃を実施するための計算を実施して照準に反映する必要があるのだが、FCSの無いウィルの機体にはそれができない。
全て、ウィルの勘で狙うしかないのだ。
ウィルからの攻撃で、アレスの接近に気がついた宙賊のMFたちは散開し、ウィルを狙って攻撃を開始した。
アレスの元々の機体性能はかなり高いもので、ウィルはうまく機体を操って宙賊からの攻撃を回避したが、相手は12機もいる。
すぐにウィルの機体は直撃弾を受け、煙を吐き出しながら降下し始める。
「このぉっ! よってたかって! 」
レナは被弾したウィルのアレスを狙って執拗な攻撃を加え続ける宙賊の機体を狙って、ミーティアの武装を発射した。
宙賊たちはウィルに気を取られていたせいでレナの接近に気がついておらず、レナのその攻撃は不意打ちになった。
背中にミーティアからの中性子ビームを何発もまともに受けた宙賊の1機、アイアンドールをカスタムしたものは一瞬で爆発四散して空中に飛び散り、その機の爆発でようやくレナの接近に気がついて振り向いたもう1機も、直撃を受けてバランスを崩し、墜落していく。
この攻撃で、ウィルに止めを刺すために集まっていた宙賊のMFたちは態勢を立て直すために散っていった。
「ウィルくん、無事!? 応答して! 」
≪こちら、ウィル。怪我はないけど、機体の高度が維持できない! このまま、何とか着地する! ≫
レナはウィルからの応答があったことでほっとした表情を見せたが、すぐに気を引き締めなおした。
宙賊の機体を2機、倒しはしたが、まだ10機以上も残っている。
どんな風に戦うべきかを考える必要があった。
「了解。こうなったら、地上で戦いましょう。地形をうまく盾にして戦った方が、大勢を相手にするには有利だろうし。ウィルくん、どこか、いいところを知らない? 」
≪それなら、うちの農場の裏手に岩場があるんだ。よくそこでMFの操縦の練習をしていたからよく知っているし、それに、ちょうどMFが隠れられるくらいの障害物が、たくさんある≫
「いいわね。そこに向かいましょう! 」
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