第9話「取引」
「そうさ、取引さ」
アヴィドはそう言うと、グラスをテーブルの上に置き、ソファに深く腰かけて両腕を背もたれの上に左右に大きく広げて座った。
偉そうな態度だった。
「お互いに情報交換する。キッドの居場所を突き止めたのなら4人で一緒に向かって、キッドを捕まえるか、ケリをつけてやる。そして、賞金は仲良く山分けだ」
「へぇ? それで、私はいくらもらえるのかしら? 」
「公平に、頭数で割って、こっちが75パーセント、お嬢ちゃんが25パーセントだ」
「話にならないわね」
アヴィドの提案に、レナは右手をひらひらと振って見せる。
「あんたたちと違って、こっちは1人で自立してやってるの。公平に、って言うのなら、そっちが50で、こっちが50。でしょ? 」
「へっ、そんな細い腕っぷしで、よく言うぜ」
レナの言葉を、モヒカン頭のブシャルドが嘲笑(あざわら)った。
「へへへ、そのほっそりしたのは正直そそるけどよォ、賞金稼ぎとしちゃぁちと頼りなさすぎらぁな。第一、姉ちゃんはどんな武器を使ってんだよ? 豆鉄砲か? 」
「アンタたちは、どうなのよ? 」
「俺たちは、これさ」
プシャルドの挑発でムッとした顔になったレナに、アヴィドは不敵な笑みを浮かべながら、脇の下に吊っていたホルスターから銃を抜いて見せる。
拳銃だが、大きな銃だった。
「どうだ、でけエだろ? 50口径の中性子ビームをぶっぱなすじゃじゃ馬さ」
「ふぅん? アンタみたいに見た目だけでかい銃じゃないといいけれど。で? 他の2人は何を使うのよ? 」
「俺は、これさ。俺は銃が嫌いでね、コイツしか使わねぇことにしてるんだ」
毒蛇(ヴィーペラ)団は余裕の表情お崩さず、今度はプシャルドが腰の後ろのホルスターから1本のナイフを取り出して見せる。
よく研がれ、鈍く光るサバイバルナイフだった。
その刀身に、プシャルドは自身の舌をはわせる様にして、下品で気色悪い笑みを浮かべる。
「なんなら、姉ちゃんのその高そうな服で切れ味を試してやってもいいぜ? 姉ちゃんの服は、ほら、切りがいがありそうだかならな、イヒヒッ」
露骨なプシャルドの言葉に、レナは不快感を隠そうとしなかった。
だが、理性が働き、レナはここが公共の場であることを思い出す。
他のお客にも、店のマスターにも、何の恨みもないのだ。
「ふん。見た目通り下品な趣味ね。……それで? そっちの、太っちょは? 」
レナからの問いかけに、しかし、トントは自身の武器を見せなかった。
右手を見て、左手を見て、それから、自身の服をあちこち探し、それから、ガックリとうなだれる。
「アニキ、俺、何にも持ってない」
「バカ、気にすんな。お前の得意武器はLMGだろうが。んなもの、店に持ち込めるかよ」
落ち込んでいるトントの肩をぽんぽんと叩いて励ました後、アヴィドは視線を再びレナの方へ向ける。
「それで、姉ちゃんは何を使うってんだ? こっちはタネ明かししてんだ、見せてくれるんだろうな? 」
「ええ、もちろん」
レナはそう言うと、自身の服のスカートを軽くめくって見せる。
レナの美しい太腿があらわになり、アヴィドは口笛を吹き、プシャルドは下品な笑いを漏らし、トントは無言で見入った。
「口径9ミリ、中性子ビームを発射。威力だけなら上なのはたくさんあるけれど、命中精度は抜群。おまけにとっても軽量よ」
3人からの視線を集めてもレナはすました表情のままだ。
内心は、「どうしてこんな奴らに」と不愉快で仕方なかったが、そんな感情を表に出そうものなら、かえって相手のことを喜ばせるだけなのは分かり切っている。
「へぇ、大したもんじゃねぇか。そいつは、ノービリス・グループが政府の治安組織向けに納入してる、最新型だな。簡単には手が出ねぇ、高ぇ代物だ」
子分2人がレナの脚に見入っている中、その兄貴分であるアヴィドは、さすがに冷静にレナの武装を分析していた様だ。
「ま、姉ちゃんみたいな細腕じゃぁ、威力のある武器に手を出すより、使いやすくて確実に当たるのを選ぶのは、悪くねぇ選択だ」
「どうも。……それで? 賞金の分け前のことは、考え直してくれた? 」
「いいや? そいつとこいつは、事情が違う」
アヴィドは肩をすくめ、右手を左右に振って見せる。
「いい武器を持ってたとしても、肝心なのはそれを使う腕さ、腕前」
「あら? アンタたちはその御大層な武器を使いこなせるってわけ? 」
「もちろんさ。……何なら、試してみるかい? 」
アヴィドが不敵に言い放つと、プシャルドはナイフを高く放り投げて再び器用にキャッチし、トントは近くに何かないかを探して、テーブルナイフを手に取って、ドン、とテーブルの上に叩きつけた。
「姉ちゃんが俺たちに勝ったら、そうだな……、こっちが25パーセント、姉ちゃんが75パーセントの取り分でもいい」
「あら、太っ腹。……で、私が負けたら? 」
「そんときゃぁ、ぐへへっ、俺たちの相手をしてもらうぜぇ」
プシャルドはそう言うと、イヤらしい視線でレナのことを上から下まで舐(な)めるように見まわし、舌なめずりをする。
レナは、あまりの不快感に、背筋に悪寒を感じた。
トラブルは避けるつもりだったが、いい加減、我慢できない。
「どうだい? 自信があるなら、試してみないかい? ……それとも、姉ちゃんのその武器はただの飾りかい? 」
「上等じゃないの」
売り言葉に買い言葉、レナが毒蛇(ヴィーペラ)団の挑発に乗って席を立とうとしたその時、店の扉が開く音がガチャン、とやけに大きく鳴り響いた。
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