第6話「キッドはそこにいる」

「まったく。油断も隙も、あったもんじゃないわね」


 レナは立っていた4人が両手をあげ終えるのを待ち、それから、宙賊たちを睨みつけながらそう言った。

 それから、銃口を女船長から順に突きつけていき、威圧した後、レナは自身に突き飛ばされて操縦席の座席に頭をぶつけ、痛そうに打ったところをさすっている男性へと銃口を向けた。


「そこのあなた! そう、私を襲ったあなた! 前に来なさい! 」

「んな? 俺か? 」

「そうよ、あなたよ! 」


 レナの声にその男はあからさまに嫌そうな顔をしたが、女船長が目配せしたことで、渋々といった感じで前の方に進み出てくる。


「ほらよ、これでっ!? 」


 レナは、ふてぶてしい態度を崩さないその男の発言を最後まで言わせず、脚ばらいを食らわせて男の体勢を崩すと、その胸ぐらをつかんで床に叩きつけた。


「てめぇっ、何しやっ、つっ! 」


 男は突然の仕打ちに声を荒げるが、目の前に銃口を突きつけられて押し黙った。

 そしてレナは手錠を取り出すと、大人しくなった男の両手を拘束し、自由に動けない様に近くに固定する。


レナは、身動きが取れなくなった男を、優越感にひたる様な笑みを浮かべながら見下ろす。


「ちょうどいいわ。どうせ、あんたたち全員に聞くつもりだったけど、まずはあんたに聞きましょう」

「な、なんだよ? 」


 見下ろされて悔しそうではあるものの、銃を突きつけられ、手も拘束されているがために反抗することもできない男は、若干怯えながらも精一杯の強がりで引きつった笑みを浮かべ、レナの質問に応じた。

 そんな男に、レナはある名前の人物のことをたずねた。


「あなた、キッドって、知ってる? この星系にいるっていう噂を聞いて、私、ここまで来たんだけれど? 宙賊のあなたなら、ご同業者だもの。何か知っているんじゃなくって? 」

「ああ? キッド、だぁ? 」


 レナに銃口を突きつけられ、額に冷や汗を浮かべていた男は、しかし、「ちょっとでも儲けになるのでは」とでも思ったのか、にやりと笑みを浮かべる。


「はっ! そんな奴、知らねぇなぁ! 知ってたとしても、タダじゃ教えねっ、ゥがっ!? 」


 レナは、またもや男に最後までしゃべらせなかった。


 レナは男に銃口を突きつけながら、その股間に自身の片足をのせ、遠慮情け容赦なく、思い切り踏みつける。

 男は股間を踏みつぶされるあまりの激痛に、激しく悲鳴を上げ、悶えた。


「キッドよ、キッド! ねぇ、アンタ知ってるんでしょう? さっさと言いなさい!? 早く言わないと、このまま潰しちゃうわよ! 」


 レナは本当に容赦がなかった。

 もしかすると、自分を奇襲してきた男のことを、少し恨んでいるのかもしれなかった。


 だが、男は口を割らなかった。

 なけなしのプライドが、悲鳴を上げ、悶絶しながらも、彼をレナに反抗させ、レナの思うままにさせまいとしたのだ。


 やがて、男はビクン、と身体を跳ねさせると、悲鳴をあげなくなった。

 どうやら、あまりの激痛に意識を失ったらしい。

 男は白目をむき、身体を痙攣(けいれん)させながら、ぶくぶくぶくぶく、と、口から泡を吐き出している。


 その光景を目にして、女船長はレナの気の強さと、口を割らなかった男の根性に感心したのか口笛を吹き、他の宙賊たちは顔を青ざめさせ、怯えた様な視線でレナを見た。


「ふん。思ったより、根性あるじゃないの」


 気絶してしまった男に吐き捨てるようにそう言うと、レナはその視線を、自身を怯えたように見ている3人の男たちへと向けた。


 レナは双眸を細め、獲物を見るような視線で3人の男たちを眺め、まずは、最も背の小さい子供へと狙いを定める。

 ぱっと見では男か女かはっきりしなかった子供だったが、レナを見てあからさまに怯えているその態度から察するに、どうやら少年である様だった。


 レナが目の前に立ち、「ひっ! 」と小さく悲鳴を漏(も)らしたその少年に、しかし、レナは優しい視線を向けた。


「坊や、いくつ? 」

「じゅ、13歳ですっ」

「そう。なら、当局に出頭したら、宙賊なんか忘れて、まっとうに生きなさい。いいわね? 」


 それから、レナは、少年の隣に立っていた、筋骨隆々とした男へと視線を向ける。


「おっ、俺はっ! 何も言わない、何もいわないゾっ! 」


 その男は気丈にもレナにそう言ってのけたが、その怯えようは一番ひどかった。

 全身がガクガクと震え、額には汗がとめどなく湧き出て、そのうえ、失禁までした。


「ばっちぃわね」


 見た目はいかつい男がここまで動揺していることにさすがに憐(あわ)れに思ったのか、レナは、3人目の男に標的を移した。


「おっ、おおお、俺は、何も知らねぇ、知らねぇぞ」


 3人目の男は、怯えながらもそう言った。

 彼の中にあるプライドが、彼に見栄を張らせているのだ。


「そう? 私はそうは思わないけど? 」


 レナは3人目の男に冷酷な微笑みを向けると、懐から予備の手錠を取り出した。

 そして、素早い動きで足払いをかけ、その男をその場に転倒させる。


 レナを見上げて怯え、震えているその男に、レナは冷酷で、ちょっとだけ楽しそうな笑みを浮かべながら迫る。

 そんなレナに、男は必死に命乞いをした。


「ま、待て! 本当に、本当に俺はキッドってやつのことは知らねぇんだ! 姉ちゃん、勘弁してくれ! こんなのむご過ぎる! 」

「大丈夫よ。だって、あなたの「ナッツ」は2つもあるんだもの。片っぽ潰したって、女の子になったりなんかしないわよ? 」

「ひっ、ヒィイイイィっ! 」


 悲鳴をあげるその男に、レナは笑みを浮かべたまま、さらに1歩接近した。


「あっ、姉御ぉォっ!!! 」


 3人目の男はとうとうこらえきれず、女船長に助けを求めるように情けない悲鳴をあげる。


「あー、分かった、分かったよ。お嬢ちゃん、キッドの居場所なら教えてやるから、その辺にしといてやっとくれよ」

「あら? もぅ、最初から素直にそう言ってくれれば良かったのに」


 やれやれ、といった感じで口を開いた女船長に、レナは満面の笑みを向けた。


「奴は、サンセットにいるっていう噂だ」

「サンセット? この星系にある、居住可能惑星ね? 」

「そうさ。もっとも、あくまでこれは噂さ。もしキッドがいなくっても、あたしらを恨んだりしないでおくれよ? 」

「ええ、いいわ。それじゃ、船長さん、積み荷の確認もお願いできるかしら? 」

「……ああ、はいはい」


 女船長は肩をすくめ、レナを貨物室に案内するために歩き始める。

 レナは、災厄が過ぎ去ったことに心の底からほっとしている3人と、気絶したままの1人を残し、彼らに手錠を解除する鍵を放り投げてから、女船長の後に続いていった。

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