第5話「乗船」
レナの攻撃によって全ての兵装を破壊されてしまったブリッグは、レナに誘導されて、小惑星帯の中から出てくる。
そこでは艦船運用支援AIのデアによって操縦されたベルーガが待機しており、ベルーガはブリッグを威圧する様にその砲門を向けた。
「宙賊さん。念のため、そちらに乗船させてもらってもいいかしら? 」
ブリッグを誘導して小惑星帯の中から出てきたレナは、ブリッグがベルーガの射程内に入り、もはや逃げ出すことのできない状態となったことを確認すると、通信回線を開いた。
≪何だい、乗船したいだって? そりゃまた、どうしてだい? ≫
「一応、積み荷を確認させてもらいたくってね。当局に引き渡したときに賞金をちょろまかされたらたまったものじゃないもの。それと、あなたたちにちょっと、聞いてみたいことがあるの」
レナの提案に、ブリッグの女船長は他の乗員たちと相談しているらしく、しばらく応答はしなかった。
≪分かったよ≫
しかし、しばらくして、女船長はレナの提案を了承した。
「感謝するわ」
レナは女船長にそう言うと、機体をブリッグに近づけ、装備していたライフルを腰のマウントに装着してミーティアの両手を自由にさせると、ブリッグの船体の一部をつかんで機体を固定する。
それからレナはバイザーデイスプレイのシステムとのリンクを解き、自身を座席に固定していたベルトを外して、コックピット内の武装ラックに入れてあった9ミリ口径のレーザーピストルを手に取ると、機体のコックピットハッチを開いた。
レナはコックピットから出ると取手をつかんで方向転換し、ミーティアを蹴ってブリッグの船外ハッチにとりついた。
「船長さん、開けてちょうだい」
レナが要請すると、ブリッグの女船長は大人しくハッチを開いた。
レナは油断せず、拳銃を構えながら、身体を完全にはさらさない様に開いたハッチの中を確認する。
どうやら、宙賊たちが待ち構えているということはない様だった。
レナは安心して小さくため息をつくと、船内へと入り、操縦室へと向かっていった。
ブリッグは小型の船だったが、重力発生装置を搭載しており、船内には重力があった。
レナは焦らず、慎重に、1歩1歩進んでいく。
操縦室では、4人の男女が待っていた。
1人は女性で、声の印象通り肝の座っていそうな力強い女性で、後の3人は2人が大人の男性、1人が、背の小さい、宇宙服を身に着けているせいで男とも女とも判断のつかない、まだ子供の様だった。
「どうも、宙賊さん。こちらは賞金稼ぎのレナ・ノービリスよ。悪いんだけど、立って、一列に並んでもらえるかしら? 話を聞いている間、妙な動きをされても困るもの」
慎重に、操縦室の内部に入らず、その出入り口で銃を構えながら、レナは宙賊たちに丁寧に命令した。
宙賊たちは互いに顔を見合わせたが、女船長が目配せをすると、大人しくそれぞれの座席から立ち上がって、レナの前に整列する。
どうやら、本当に抵抗する意思はない様だった。
「全員で、4人。まあまあの賞金になりそうね。ところで、船長さん、この船の定員は5名のはずだけれど、これで、全員? 」
レナは銃を油断なく構えながら、操縦室の内部へと数歩、足を踏み入れる。
「いいや? 」
女船長は、不敵な笑みを浮かべながら、レナからの質問に答えた。
レナの頭上から、隠れていた宙賊が、鋭いナイフを片手にレナに襲いかかって来たのはその時だった。
レナは、しかし、その襲撃に素早く反応した。
宙賊たちがこういった行動に出ることをレナは十分に予測していたし、レナはブリッグの構造を熟知していたから、この場で自分を襲うなら「上だな」と分かっていた。
襲いかかって来たのは、大柄な男だった。
鍛え上げた肉体を持ち、その動きは早く、力強い。
だが、この事態を予想していたレナは、つかみかかって来たその男の手をしなやかな体術の動きでかわし、逆に相手のみぞおちに肘撃ちを食らわせて突き飛ばした。
レナは、鍛えているとはいっても細身の女性に過ぎなかったから、普通は大柄な男性を突き飛ばすことなど難しいはずだった。
だが、男のナイフをかわした動きもそうだが、レナはある種の体術も習得しており、このくらいは造作もないことだった。
「動かないで! 」
レナは体勢を立て直し、そう鋭く叫びながら拳銃を宙賊たちに向けてその動きを牽制(けんせい)した。
宙賊たちはナイフを持った男が襲いかかるのと同時に、それに呼応してレナを攻撃しようとしていたが、しかし、レナがあまりにも素早く対処してしまったために、まだ動き出したばかり、という姿勢のまま、銃を突きつけられて動きを止めるしかなかった。
「全員、両手を頭の上に! ゆっくり! さもないと、容赦しないわよ! 」
レナを倒す機会を失ってしまった宙賊たちは、その命令に従う他はなかった。
「あー、分かった、分かった。大人しくするさ」
肩をすくめて諦めたように笑った女船長が、レナに言われた通りにゆっくりと両手をあげると、他の船員たちもおずおずといった感じでそれに従った。
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