後日談

 スタイリーの暴走で引退のチャンスを逃した元異世界人の国王は、辺境伯クロードの長子であり孫に当たるロイドが成人し結婚したのを、機に問答無用で引退したものの、既に70歳を越えて自由に動くことはままならず、王妃と共に王城の離宮でロイド王の相談役をしながら余生を送った。





 ベストリーチェ嬢は王家に養子に入った。

 これまでファイン王国には存在しなかった公爵の地位を得て、先王夫妻と仲良く暮らし、ロイド王の即位後はその子供達の教育を手伝いながら、幸せな人生を送った。

 結婚の機会に恵まれなかったことを先王夫妻からずっと謝られ続けたが、社交界にも出る必要もなく、趣味の刺繍を自由にしているだけで、生活が事足りる離宮暮らしにむしろ気まずい気分を覚えていたのは、彼女しか知らない秘密である。




 元王子スタイリーは、男爵位を賜ったものの与えられた領地は、国王夫妻が隠居用に準備を進めていた別荘とその敷地のみ。

 敷地内には小麦用の畑や小川から水を引いた池などがあった。

 初年のみは近くの村から農民の老夫婦が技術指導に来ており、それなりの収穫物を得ることができたが、翌年以降は懸命に働いても、1年食うのが精一杯の収穫しか得られず、満足な収量を得られる頃には10年の歳月を必要とした。

 やっと安心して生活が出来るようになるかと思えば飢えない程度の農産物を残して、借金の返済を名目に王家に徴収され、その暮らしぶりが向上することは生涯なかったと言う。






 ロレット嬢は早々にスタイリーと別れ、自分の異世界知識で成り上がろうとするも、国内では誰も相手にしてもらえず、外国へ逃げようと画策した。

 しかし、ファイン王国を出て半日で、奴隷として売られることになる。

 王家からマークされていた女性が国外逃亡など無理に決まっているし、ファイン王国では奴隷制を認めていないので、国を出るのを狙っていたとの見方もある。

 彼女は本来出回らないはずのファイン王国の女性奴隷として、高値で買い取られたが、奴隷商が売るための状態確認をすると股に焼鏝がなされていることが分かった。

 密偵に騙されたと知った奴隷商により様々な薬の実験台として利用され、1年と経たずに裏路地で骸を晒したのだった。

 奴隷として売られた犯罪者に価値のある情報があるなどと言う戯言を信じる奇特な人物は現れず、危険な知識の蔓延もなかった。



ファイン王国とその周辺は、今日も津々浦々に平和だった……。

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