第199話 セインVS.アルト

手に持った剣を勢いよく振り下ろし、次には勢いよく振り下ろされる剣を躱して、時には魔法を放ち、再度剣を振り下ろす。


そんな一進一退の攻防を俺とセインは繰り広げていた。


まさか彼とこんな互角に剣を交えられる日が来るとは。想像だにしていなかった。


「…皆の姿は、君が見せてくれたものかい?」


と、セインと剣を打ち合い始めてから十数秒が経ったとき。俺の振り下ろした剣を避けたセインがそう尋ねた。


「は?何のことだ?」


全く身に覚えのないその問いに、続けて振り下ろされたセインの剣を避けて返答する。


皆?皆って一体誰のことだ?セインは寝ている間に走馬燈でも見ていたのだろうか?


「…いや、分からないんだったらいいよ」


「———そうか」


少し考え込むような顔して話を打ち切ったセインへ、俺は思い切りその腹を蹴り飛ばす。


「ぐふッ…」


「俺と戦っている最中に考え事とはな。舐めるのも大概にしてくれ」


その衝撃に悶えるセインへ、俺は間髪入れず続けて蹴りを叩き込んだ。


「がはッ…」


ろくに受け身を取ることの出来なかったセインは、勢いそのままに地面を転がっていった。


俺にはよく分からないが、セインは気絶している間に何かしらの経験を経て、そのやる気や身体能力が向上しているようだ。

———が、剣を交えて分かった。それでもまだ、俺の方が僅かに強い。今のままのセインでは俺に勝つことは出来ない。


「ッ!!、セイン君!大丈夫!?」


勢いよく地面を転がるセインの姿を見たシャーロットやアーネ達は、急いで彼の元へと駆け寄る。


「セインさん!!大丈夫ですか!?、すぐに回復魔法を…!!」


「セイン君!意識をしっかりと保て!」


傷ついたセインの周りには複数人の女性が集合し、彼へ向けて必死に回復魔法をかけている。


その光景を側から見学する俺は少しだけ、羨ましいなと思ってみたり。


「…駄目だ。僕一人の力では…彼には、アルトには勝てない…」


剣を交えたことで彼自身も悟ったのだろう。床に力なく座り込むセインは、そう弱気な言葉を吐いた。



そんなセインへ、その周りに立つシャーロット達は何も言うことが出来ない。


それはそうだ。今のセインは主人公効果でかなり強化されている状態。セインの動きがいつもよりもかなり良いという事自体は、彼女達もその様子を見て察しているだろう。

しかしその状態のセインですら、俺には勝てないと断言しているのだ。そんなの、黙ること以外に何が出来ると言うのか。


「いや、まだです!」


———しかし、その永遠に続くかと思われた沈黙を一人の少女の声が破った。


「セインさん、私の魔力を預けます。あの人を——アルトさんを救ってあげてください!」


その声の主は、茶髪に水色の瞳を持つ少女——アーネだった。


アーネはセインの肩に手を置き、その魔力をセインの体へと流す。


自身の魔力を他の人の体へ流すことはその見た目以上に難しいのだが、まあアーネの魔力操作の腕を持ってすれば容易いだろう。


彼女のしていることを理解したと同時、座り込むセインの体へ次々と複数の手が伸びた。



「手負いの私達が間に入ったところで足手まといになるだけだろう。セイン君、私の魔力も君に託そう。———アルトを、救ってやってくれ」


「…私からも。——セインになら、アルト様を任せられる」


「セイン君、私じゃ駄目だったみたいだから。——あの馬鹿に一発、良いやつ入れてきてよ」


アーネに続き、その手を伸ばしたイヴェルやオリア、シエル、そしてシャーロット達はセインへとその魔力を託す。


「みんな…ありがとう」


彼女達から魔力を受け取ったセインは感謝の言葉を述べ、再度立ち上がる。


「この一撃で、決める」


その右手に剣を握り直し、居合いのような構えをとったセインは勢いよくその地面を蹴った。彼は再度その力を増したのか、光をも超えそうなくらいの速度で俺へと一直線に迫る。


その手に握られる真っ直ぐに突き出された剣は先程までの眩しいような金色ではなく、鮮やかな虹色に光輝いていた。様々な属性の魔力が混ざり合った結果だろう。


この剣をまともに喰らえば、きっと俺は一発KOだ。———だが、決して避けられない訳ではない。


これまでに何度も体験してきた。

かつて全くの凡人であった俺が、数多の強敵達と渡り合うことのできていた最大の要因——————どれだけそのスピードが早くとも、来る方向さえ分かっていれば避けることは難しくない。


セイン自身にも余裕がないのだろう。

彼は何の策も持たず、真っ正面から一直線に突っ込んでくる。それが到達する前に、俺は横へ移動してそれを回避すれば良いだけの話だ。

全力で戦うと言った手前、ここで手を抜くつもりは一切ない。


俺がそのセインの剣を避けるために足へ力を入れた——そのとき。


「ッ!!、ゲホッ!!」


突然、喉と胸の辺りに違和感が生じた。

俺はそれを我慢することが出来ず、その場から動く事なく大きく咳き込んでしまう。口内からは鉄の味がする。


「ちッ…女神様からのお迎えか」


虹色の剣を握りしめたセインは既に眼前へと迫ってきている。


———これはもう、避けられない。


「またね、アルト」


「ああ、さよならだ。セイン」


セインの握る虹色に輝く剣が、俺の胸へ深々と突き刺さった。

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