第140話 街中にて

「流石、聖王国一の都心。王都ほどじゃないにしろ人が多いな」


街中を適当に歩きながら俺は1人呟く。


女神祭直前ということも相まってか街には未だ多くの明かりが灯り、多くの人が集まっていた。中には完全に酔っ払っている者もちらほら見られ、街は小さな喧騒に包まれている。


「さて、さっさと飯にするか。聖王国の郷土料理とか食べてみたいが——」


街全体の大まかな地図を片手に、どの店に入ろうか考えていたとき、


「なぁなぁ、姉ちゃん。俺たちと遊ばねえか?その男よりも楽しませてあげられるぜ?」


「やめてください。しつこいです!!」


割と近くから、そんな言い争いをする声が聞こえた。


「面倒な予感…」


ゆっくりと声のした方を見てみると、見覚えのある2人組——アーネとルーカスが数人の男達に囲まれていた。

2人を囲っている男達はどれも高級そうな服を身につけており、聖王国の貴族なのだろうということが窺える。まあ貴族だろうが、その本質はその辺のチンピラと何も変わらないようだが。

 

「いいじゃん、1回くらい遊んでくれたって。どうせ、こいつ以外にも色んな男と遊んでるんだろ?」


男達の誘いを拒否し続けるアーネに、その中の1人がそんな発言をした。


「…私のことはいくら侮辱しても構わん。だがな、彼女を侮辱することは許さんぞ!貴様ァァァァ!!」


すると、それを聞いたルーカスは我慢の限界だったのか、その発言をした男を目掛け拳を振りかぶり——


「はい、ストーップ。威圧」


「なっ、」


その真正面に飛び込んだ俺によって、その拳を受け止められた。更に威圧により、体の動きも止められた。


動けなくなっているルーカスを正面に見据え、俺は静かに語りかける。


「ルーカス、お前がアーネ——いや、エルトリアさんを大切に想ってるのは分かった。だが、ここで暴力沙汰を起こすことは賢明じゃない。確かにお前ならこいつらくらい、簡単にボコすことができるだろう。だがここは他国で、お前の権力の通じない領域だ。騒ぎを聞きつけて駆けつけた自警団に取り押さえられる。それで終わりだ。そうすれば間違いなく彼女へも迷惑がかかる。人を守りたいなら、そこまで考えて行動しろ」


「ッ…」


そんな説教にルーカスは、威圧を受けながらも悔しそうな顔をした。


俺はルーカスから視線を外し、それと同時に威圧をかけたアーネへ目を向ける。


「それに——エルトリアさん。貴方もだ。イライラするのは分かるが、最上級魔法はこんな街中で使うものじゃない。苛つくなとは言わない。だが、冷静に考えるようにしてくれ。貴方ならできるはずだ」


そう、本当に止めなきゃいけないのはこっちだった。

アーネは男達に向けて最上級魔法を放とうとしていたのだ。そんなことをすれば男達は確実に死ぬし、周りにも大きな被害が出る。街中は女神祭どころではなくなるだろう。


「お前ら2人は強い。だからこそ、弱い奴らを相手にするときは頭を使え。例えば、俺が実践している方法としては——」


「急に出てきて何をしてるかと思えば、俺たちが弱いだと?ふざけやがって……お前ら!かかれ!」


周りの男達を無視して話を続ける俺へ、周りの男達は一斉に襲いかかってきた。


「———こういう風に。威圧」


そんな男達に対し、俺は調整した軽い威圧をぶつける。


「は、はぁ?な、何だこれ…全身から冷や汗が…」


威圧に当てられた男達はかなり手加減したにも関わらず、足がすくんでその場から動くことが出来ないようだった。


「今回はこれで見逃してやる。だが、次にこいつらに手を出したらこれじゃあ済まないぞ。分かったらとっとと行け」


そう言って威圧を解くと、その男達は蜘蛛の子を散らすように全力で逃げていった。


まあ、アーネを侮辱した発言をついては俺も少しイラッと来たからな。良い気味だ。


「ま、言いたかったことはそれだけだ。怖い思いをさせて悪かったな」


逃げていった男達を見送った後、俺はアーネ達に向き直りその威圧を解いた。


「じゃあ俺はもう行くから。あ、エルトリアさんはちゃんと部屋まで送っていけよ」


「い、言われなくても」


お邪魔虫はもういらないだろう。


俺はアーネ達に背を向け、夕食を求め夜の街へと戻っていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



適当な料理屋で夕食を済ませて部屋へ戻ったとき、時計は11時を指していた。


寝るのには丁度良い時間だが——


「まあ寝れないよな。知ってた」


取り敢えず布団にくるまってみて30分ほど。思いっきり冴えてしまっている目を見開き、俺は半身を起こす。


「そうだ。せっかくだしアイラの件についても調査してみるか」


この夜をどうやって越そうかと考えたとき、アーレットからの依頼を思い出した。

どうせ何もしなくともセインが全てを解決することは知っているが、まあ暇つぶしくらいには丁度いいだろう。あくまで見学するだけだ。


「そうと決まれば、変身」


猫の姿に変身し、窓から外へ飛び出す。


「!!!」


「ん?」


その瞬間、俺は誰かから見られている様な気配を感じた。


しかし、俺の周りに生物の気配はない。

気のせいだったか?まあいいか。


「ニャンッ」


俺はそのまま教会の敷地を抜け、深夜の街へと飛び出した。





「あ、危なかったぁ…いきなり窓から出てくるなんて聞いてないですよ…それにしてもこんな時間に何処へ...?いや、私はもうアルトさんには関わらないって決めてッ...」


その様子を遠くから眺め、呟く少女の存在には気がつかずに。

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