第28話 受注希望の冒険者

換金所の付近でアーネと他愛のない会話をしていると、時刻は9時の5分前となった。


「さて、そろそろ行くか」


「本当にその格好で行くんですか...」


時間を確認して目的地へ向かって足を踏み出すと、アーネは嫌そうにしながらもしっかりと後についてきた。俺達は受注希望者の集合場所に指定した、冒険者ギルドの休憩所へと移動する。


そこには既に、数十名の冒険者達が何かを待っているように待機していた。


「結局、この人だかりの原因もアルトさんだったんですか...」


「おいおい、まだ決めつけるのは早いだろ」


まあ、彼女の言っていることは間違っていないので否定はしないが。


アーネには休憩所の端の方で待機しておくよう指示し、9時になると同時、俺は集まった冒険者達の目の前にある踏み台の上に立った。


数十人の視線が一斉にこちらを向く。


「えー、冒険者の皆さん、おはようございます。私は依頼主の——アルマです。この度はお集まりいただきありがとうございます。早速、今回の依頼の件ですが——」


「ちょっと待てや!!」


会場に集まった冒険者達へ向けた依頼の内容について説明始めようとしたところで、その話を遮り1人の男が声をあげた。

無精髭を生やした筋骨隆々の男だ。


「どうしましたか?何か質問でも?」


「一つ確認させろ。本当にお前がこの依頼の依頼主か?」


「ええ、そうですが」


「この依頼の報酬は1日3万Gで、期間が1ヶ月強...つまり、報酬金は合計で100万G程度になるはずだ。お前、明らかにまだ子供だろ。100万Gなんて大金を本当に用意出来んのか?これだけの人数の冒険者を集めたんだ。間違えてましたじゃ済まされないぞ?それと、なんだそのヘンテコな帽子と仮面は!人に向かうときはテメェの顔を見せろ顔を!」


声を上げた男は休憩所全体に響くくらいに大きな声でそんなことを言ってきた。


確かにこの男の言い分は間違っていない。背丈的にも明らかにまだ子供である俺が、100万Gを支払うなど信じる方が難しいだろう。


また、俺は帽子と仮面をつけて頭部のほとんどを隠しているのだ。まあ初めてこの姿を見たのなら、信用はできないだろうな。逆に素材の交換所で俺のことを見ていれば、金の部分については信用できるかもしれないが。


「申し訳ありませんが、帽子と仮面を外すことは出来ません。事情があり正体を明かせないもので。しかし、報酬についてはご安心ください。既に用意出来ており、依頼を受けてくださる事が確定したら、即時お支払い致します」


「けッ、何処までが本当だろうな」


「これ以上の譲歩を出来ません。何か不満な点がある場合はお帰りいただいても結構ですので」


これ以上の話し合いは時間の無駄であると判断し、こちらから少し強気に出てみると男は黙り込んだ。

帰りはしないようだ。いい性格をしている。


「さて、話を再開しますが、今回の依頼内容は依頼書にもあるように特定の人物の保護及びその周辺の警備です。期間は1ヶ月から2ヶ月。報酬として1日あたり3万Gを支払います。保護及び警備の対象となる人物については、この依頼をお願いする方々にのみお話しします。ここまでで、何か質問等はありますか?」


そう言いながら俺は自身の目に魔力を集めてから、この場にいる冒険者達に目を向ける。

大まかにでも、集まった彼らの実力を把握しておくためだ。


あー、1人だけ桁違いの強いオーラを放っているのがいるな...うん、やっぱりアーネだった。


「質問いいか?」


「はい、どうぞ」


すると集まった冒険者のうち、1人の若い男が手を挙げた。焦げ茶色の髪の毛にバンダナのようなものを巻いている男だ。


ふむ…この男、強いな。

その佇まいからして、体の使い方が先程の突っかかってきた男とは全く違う。魔力のオーラはあまり感じられないものの、強者独特の余裕みたいなものが感じられる。全盛期の父さんと同じくらいには強いのではないだろうか。


「俺たちが警備をする人間は、例えば犯罪組織の構成員とかではないよな?犯罪の片棒を担ぐのはごめんだぜ」


なるほど。確かに、こんな見た目のやつが人物の保護を依頼するのだ。犯罪組織が裏で絡んでいると思うのも無理ないだろう。


「安心してください。むしろ、あなた達にはその対象者を犯罪組織の手から守って欲しいのです」


「ふ〜ん。なるほどね。分かった、ありがとう」


こちらの返答にバンダナをつけた男はそう言うと、それ以上何かを言うことはなかった。


そのバンダナ男の周辺にはパーティメンバーなのだろうか、男と同じくらいの実力を持っているであろう男女が複数人見られる。


「それでは次に、どのようにして依頼をお願いする方を決めるかですが、単純に実力のある方にお願いをしたいと思っています。簡単に言ってしまえば、俺の独断でこの中からお願いする人を決めたいと思います。何か質問はありますか?」


「質問しかねぇよ!」


再度質問を募集すると、最初に突っかかって来た筋骨隆々男がまたもや声を上げた。なんだなんだ。至極分かりやすい説明だっただろうに。


「実力で受注者を決めるってのは、まあ分かる。相手は犯罪組織らしいからな。生半可な実力じゃあ、数で押されると対応できねぇ。だが、その選定方法がお前の独断だと?冒険者ランクとかの他の指標もあるだろ?何故そっちを使わない」


先程の質問の時も思ったがこの男、頭は悪くないらしい。


俺の言葉からその内容を正しく理解し、自分の納得のいかないことについては説明を求める。まあ、一々突っかかってくるのは腹が立つが、その辺のずっと黙っている有象無象よりは幾分かマシだ。


「あなたの仰ることはもっともです。しかし、俺は冒険者個人のランクを信用していません。真に実力のある者でも何かしらの事情でランクを上げていない者もいるかもしれませんし、逆にパーティメンバーにおんぶに抱っこでランクだけが上がっていてランクに対して実力の伴っていない者もいるでしょう。それならば、俺自身が選出した方がその人の実力を信用できるということです。この選出方法などに不満がある方はお帰りいただいても結構ですよ」


「チッ」


すると俺の話を聞いた冒険者達が数人、集団から抜け出した。歩き方やオーラなどをみるにあまり強い人間ではないだろう。


因みに、二度に渡って俺に突っかかって来た男は帰っていない。やはりいい性格をしている。冒険者にはこれくらいの図太さが必要なのだ。


「さて、この場に残っている方々は依頼を受ける意思があるということで間違いないですかね。では僭越ながら、依頼を受けて頂く方を選ばせていただきます。」


一度ここで言葉を止め、考える雰囲気を出してみる。まあそんなことをしなくても、既に誰に頼むかは決まっているのだが。


「————先程、私に質問をした、頭にバンダナを巻いている男性の方。また彼のパーティメンバーの方。今回はあなた達にこの依頼を受けていただきたいと思います。」


「え?」


見事、依頼の受注権を手に入れた、焦げ茶の髪にバンダナを巻いた男は困惑したような表情を俺の方へと向けた。

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