第26話 家族愛と部外者

「た、ただいま...」


私、アーネ=エルトリアは、昼間に飛び出してから初めて我が家に戻ってきた。ここへ戻ってくるのはたった半日ぶりなのにも関わらず、1年以上離れていたように感じられる。


今日は本当に色々なことがあった。

犯罪組織に誘拐されそうになって、絶体絶命のピンチにアルトという少年に助けられた。

更にその少年の提案で冒険者登録をして、明日からダンジョンへ挑むことになった。


「本当に疲れた...」


そう呟いたとき、バタバタと家の中が騒がしくなっていることに気づいた。


「アーネ?本当にアーネかい?大丈夫だったかい?」


「お姉ちゃん!」


「お母さん...リーネ...」


顔を上げるとお母さんと妹のリーネがリビングから駆け寄ってきていて、リーネは勢いそのままに腰へ抱きついてきた。父は単身赴任で遠くの街へ出向いているため、家にはいない。


「アーネ、ごめんね...守ってやれなくて...」


私の顔を見て膝をついたお母さんは、その顔を押さえながら私に謝った。


「やめてよ、お母さん...。お母さんは私を守ろうとしてくれた。ただ、相手が悪かっただけ...」


そうだ、お母さんは何も悪くない。悪いのはあの男たちだ。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


リーネが私に声をかけてくる。


「うん、大丈夫だよリーネ」


「でもお姉ちゃん、泣いてるよ?」


「え?」


私は自分の目元を触ってみる。

そこからは、少し温かい液体が溢れていた。


「な、なんで」


自分がなぜ泣いているのか分からなかった。しかし、涙は全く止まらない。むしろ止まるどころか、今まで我慢してきた気持ちが、段々と込み上げてきて、涙は目元からどんどん溢れてくる。


「こ、怖かった...急に知らない人たちに追いかけられて、捕まりそうになって、もう一生、みんなに会えないかと...」


「本当に...本当に...無事でよかった...」


「うわぁぁぁぁん!」


お母さんとリーネも、私につられて泣き出してしまう。私たち家族3人は抱き合って、しばらくの間そのまま泣き続けた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「うんうん、素晴らしい家族愛だ」


アーネ達が家の中でどんな会話をしていたのかを盗み聞きで全て把握した俺は、それを止める。


「そんな家族の間に、俺たちみたいな部外者は要らないと思わない?」


「ああ?何言ってんだテメェ?」


「てか、誰だお前?俺たちはこの先の家に用事があるんだよ!」


「痛い目見たくないなら、さっさと失せろ!」


そして現在、目の前にはアーネ曰く頭の悪い下っ端が5人いる。その中には、裏路地の捜索中にも見かけたチンピラC,Dの姿もあった。


「今夜だけでどれくらいのアホが来るのかな」


そう呟きながら地面を蹴り、俺は男たちへと肉薄した。





「部外者は俺が排除してやるから、家族との時間を大切にな」


30秒もかからずに気絶させた阿保5人を大通りの端に転がしながら、未だに家族と泣いているであろう少女の姿を想像する。

そして再度街の方へ向き直ると、そこには明らかに敵意剥き出してこちらへ向かってくる複数の人影が見えた。


「やっぱり数だけは多いんだよね、馬鹿は」




最終的に、その夜に倒したチンピラの数は30にまで及んだ。

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