第25話 冒険者登録をしよう
冒険者がお金を稼ぐ方法というのは基本的に、依頼をこなして依頼者から達成料を得る方法と手に入れたモンスターの素材やアイテムを売って換金する2種類の方法がある。
俺はダンジョン攻略をメインとする冒険者なので、基本的にダンジョンで討伐したモンスターの素材を売ることで、生活費や宿代、ポーションなどのアイテム代を捻出している。
俺が素材の換金を行なった回数は今までで2回のみ。それぞれ5層と10層を攻略し終えた後である。そして15層の攻略を終えた今、俺は11層から15層までで手に入れた素材の換金を行うため冒険者ギルドへとやってきた。
現時刻は午後の8時。夜も程々に更けているが、冒険者ギルドは探索帰りの冒険者などで中々に賑わっている。
俺は一気に計5層分の素材を換金するため、素材の量も多く換金後の金額もそれなりになる。そして体はまだ12歳の子供だ。
素材の入った大きな袋をいくつも背負っている子供など、その場にいる冒険者たちの注目の的になってしまう。ただでさえ俺は黒髪という特徴があって目立つのに、その他の要因で更に目立つのはまっぴらごめんだ。
だから俺は———
「おい、また来たぞ、アイツだ」
「今回もまた結構な素材の量だな」
「しっかし、相変わらず変だよな。———あの帽子と仮面」
———素材の換金を行うときは適当な仮面と帽子を身につけて、正体を隠すようにしている。
ギルドへ入る前、そのような格好に着替えた俺に対してアーネは
「ふざけているんですか?」
と、結構ガチのトーンで言ってきたのだが、他の冒険者達に髪色や顔などを覚えられたくないのだから仕方がない。因みに現在、そのアーネは冒険者ギルドの入り口付近で他人のふりをしている。
「これらの素材の買取をお願いします」
「あ、はい...」
毎回利用する受付嬢のいる受付へ並び、手続きを済ませる。
何故、毎回同じ受付嬢へ頼むのか。それは、
「あの、アルトさん。いつも思うんですけど、正体を隠したいのは分かるんですが、その格好…特に仮面は何とかならないんですか?むしろ皆さんからの注目を集めちゃってますよね?」
「いやぁ、もういっそのこと、このまま突き通しちゃおうかなと思いまして」
「それはそれで本末転倒な気もするのですが...。そして、相変わらずの素材の量ですね。見たことのない素材もいくつかあるようですし。一体何処で...」
「さぁ、何処でしょうね。皆目検討もつきません」
「はぁ、分かりました。過度な詮索はギルドに禁止されていますし、何も言いません。では、冒険者カードの提示をお願いします」
初めて換金を行ったときのことだ。
冒険者カードの提示が必要であることを知らなかった俺は、意図せずしてその時担当してくれた受付嬢である彼女———ソートさんに名前や年齢がバレてしまったのである。その際、彼女へは正体を公にしたくない旨を熱く伝え、秘密にしてもらうことを約束してもらった。
そんなわけで、素材の換金を行うときは必ず彼女の担当する受付へ頼むようにしている。因みに冒険者カードには顔写真などはついていないので、ソートさんは俺の顔や髪色などは知らない。知られているのは名前と年齢、冒険者のランクくらいだろうか。
「はい、冒険者カードです。では、よろしくお願いします。明日の朝にまた受け取りにきますね」
「承知しました」
素材の査定には時間がかかるし、今日はもう遅いということでギルドからの買取金額を受け取るのは明日にすることにした。
素材を渡した後、アーネの冒険者登録を済ませるため、ギルドの入り口付近にいたアーネに声をかけると、
「取り敢えず、その帽子と仮面を外してください」
と、結構本気で言われため、俺は泣く泣く一度外へ出た後、帽子と仮面を外すのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
普段着に着替えた後、俺はアーネを連れて冒険者ギルドの登録受付へとやってきた。
「はい、これで冒険者登録をして来てね」
「こんなもの受け取れません」
アーネへ冒険者登録に必要な10万
「ああ、勿論それはあげるわけじゃないぞ。これは投資だ。知っているかもしれないが、ダンジョンでモンスターを狩ると素材が手に入る。それを売って冒険者は生計を立てているんだが、君には魔法の才能がある。君が冒険者となりダンジョンへ潜れば、沢山のモンスターの素材が手に入るだろう。その素材は俺がすべて貰って換金する。それで俺は十分に元を取れるから問題ないだろう」
「む…そうですか…。では、今は一旦受け取っておきます」
うんうん、いい感じに説得できたようだ。
アーネは冒険者登録をしに、登録受付へ向かって行った。アーネが冒険者登録を行なっている間に、俺は他の受付へと向かう。何の受付かというと、冒険者に向けた依頼を発注するための受付だ。
アーネ自身は俺がダンジョンへ連れて行くので身の安全が保証されているが、彼女の家族はそうはいかない。彼らについても犯罪組織の手から守る必要がある。
そのためには、冒険者に依頼を出すのが1番早いだろう。
冒険者というものは非常に分かりやすい生き物だ。曰く、金さえ出せばしっかりと動いてくれる者が多い。金だけで繋がれた関係。それが冒険者と依頼主の関係だ。
俺は冒険者へ依頼を出すため、依頼書へ必要事項を記入していく。
——————————————————
依頼内容:特定の人々の保護とその周辺の警備
期間:1~2ヶ月間
報酬:1日当たり3万
備考:複数人のパーティで受けることを推奨
——————————————————
以上のような内容で、俺は依頼を発注した。
1ヶ月働けば、報酬として約100万
自分で言うのもなんだが、これは破格の報酬と言える。金にがめつい冒険者たちがこれに食いつかないわけがないだろう。
備考の欄に、受注希望者は明日の朝9時に冒険者ギルドへ集合、という内容を付け加え、俺はアーネと合流するために元々いた場所へと戻る。
「冒険者登録出来ました。ところで、アルトさんは何をしていたんですか?」
先に冒険者登録を終えて待っていたアーネが尋ねる。
「あー、大したことじゃないよ。君の家族の保護について少しね」
「それ、とても気になるんですけど...」
「あはは...まあ、明日になれば分かるよ」
明日の9時にここへ来れば、多くの受注希望者が殺到していることだろう。
「はぁ、わかりました。今日はまだ何かすることはあるんですか?」
アーネは情報を聞き出すことを諦めたのか、自然に話題を変えた。
「いや、今日はもう遅いし、特にすることはもうないね。強いて言えば、明日からダンジョンにもぐるから、よく身体を休めておくこと、ぐらいかな」
「あ、明日からダンジョンへ行くんですか?」
「え?言ってなかったっけ?」
「...分かりました。ではこの後、私の家族に合わせてくれませんか?ダンジョンに入ると、長期間戻ることは出来ないんですよね?」
明日にダンジョンへ行くって伝えてなかったか。これは悪いことをしたな。
でもアーネは納得したみたいだし、問題ないか。
「あー、そうだね。じゃあ、俺が君を家まで送るよ。その後、俺は帰るから。家族との時間を大切にね。」
「え?ちょっと、待ってください。アルトさん途中で帰っちゃうんですか?犯罪組織とか大丈夫なんですか?私はてっきり、アルトさんは家の中までついて来るものだと思っていたのですが…」
家へ帰ることをあっさりとほぼ無条件で許可されたアーネは、肩透かしを食らったような顔をして問いかけてくる。
「君らの家族団欒を邪魔するわけにはいかないよ。あいつらも、そんなすぐに誘拐を企てることはないだろう。上への報告とかもあるだろうし」
「で、でも犯罪組織ですよ?頭の悪い下っ端とかが、何も考えずに突っ込んで来る可能性とかもありませんか?」
この子、意外と口が悪いな。
「まあ、俺が大丈夫だと言っているんだ。俺を信頼してくれ」
「..................はい、分かりました」
説得はされてやったけど、納得はしていないという顔だな。俺はそんな顔に気づかないフリをして、彼女を家の近くまで送る。
明日の朝に冒険者ギルドへ集合する約束をして、俺たちは別れた。
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