第11話 VS.かませ犬

やあ!皆さんこんにちは!

僕の名前はアルト!11歳!

前世でひょんなことから死んでしまった俺は、気がつくと自身の黒歴史『勇者セインの学園英雄譚』の世界に転生していた!?

主人公であるセインやヒロイン達と実際に出会い、物語の行く末を見守るべく、物語の舞台であるグレース剣魔学園へ入学することに決めた俺は、力をつける為冒険者になることを決めた!


そして冒険者になるべく、このアルクターレへやってきたわけなんだけど…街に足を踏み入れて5分でチンピラ2人に絡まれてしまった!!


助けを呼ぼうにも、ここは人気のない路地裏!このままだとお金を全部取られちゃうよ〜!一体、どうすればいいの?誰か助けて〜〜!!


次回、『アルト、無一文になる。』 



次回もお楽しみに!!!








——————なーんて、軽く現実逃避をしていたところで、チンピラ二人組のうち背の高い方——髪型はモヒカンで上半身裸、ガタイも非常に良い、ムキ男と名付けよう——が何も答えない俺に痺れを切らしたのか、再度その口を開く。


「おいおい、ビビって声も出せなくなっちゃのか?金だよ、金。金を出せってんだよ。お前、今日冒険者になるためにこの街に来たんだろ?なら、冒険者の登録料は持ってるはずだよな?それを大人しく置いてってくれれば、俺達は何もしない。だが、拒否すれば...」


そう言うとムキ男は不意に、俺の顔のすぐ横に拳を打ちつけた。

バンッッという音が響く。

横を見れば、その壁にはヒビが入っておりパラパラと小さな破片が地面へと落ちていた。


「少し痛い目を見てもらうだけだ。」


「...」


なるほど、これで一つの謎が解けた。


こいつらはどうして、まだ冒険者ですらない俺のことを標的にしたのか。こいつらの目的は、冒険者としての登録に必要な10万Gゴールドであるらしい。確かに、彼らの考え方はとても理にかなっている。


駆け出しの冒険者は易しい依頼しか受けることができないため、あまり金を持っていないことが多い。しかしこれから冒険者登録をする者は話が別だ。よほどの世間知らずでもない限りほぼ間違いなく登録料である10万Gゴールドを持っている。


中にはアルクターレで働きながら10万Gゴールドを稼ぐという者もいるが、この付近においてアルクターレは大きな都市であるため物価や地価が高い。そのためアルクターレで10万Gゴールドを稼ぐということはあまり効率的ではなく、冒険者を目指す者は他の付近の小さな街で金を貯めてからアルクターレへ訪れるということほとんどだ。


こいつらがそこまで考えているかは分からないが、冒険者登録をしようとしているものを狙っているのは間違いない。


脳みそまで筋肉でできていそうな見た目だが、流石そこまでではないようだ。


「分かったか!?お前に拒否権は無いんだヨ!!さっさと、金を置いて行きナ!」


今度は背の低い方のチンピラ———目はつり上がっており、頬は痩せこけ、アゴが少し尖っている。アゴ男と名付けよう———が嫌に耳に響く甲高い声で高圧的にそんなことを言う。



さて、どうしようか。

正直な話、この2人とここで戦っても負ける気はしない。単純な殴り合いでも勝てるだろうし、無詠唱魔法で拘束したっていい。

だが、実力を隠すと決めている以上、必要に迫られない限りあまり戦いたくない。いつどこで誰が見ているか分からないし、普段から戦いを避けるようにしておくことに越したことはないだろう。


とはいえ、数年前から家の手伝いなどをすることで貯めてきた10万Gゴールドをそう易々と渡すわけにもいかない。

助けを呼ぼうにも本当にこの辺りは人通りが少ないようで、さっきからずっとここの付近にはムキ男とアゴ男以外の人の気配がない。...こいつら、間違いなく常習犯だな。


そして逃げようにも俺には土地勘がない。

適当に逃げて、逃げ切れたとしても迷子になるだけだろう。


ふむふむ。取れる手段が思いの外少ないな。

仕方ないか...

俺は諦めたように、鞄を地面へ置く。


「そうそう、分かればいいんだよ。おい、俺は鞄の中身をチェックする。お前はこいつを見張っておけ。」


「了解でス!」


ムキ男がアゴ男へそう指示を出す。こいつらは俺のことを舐めているのか、装備はおろか携えている剣までも外すことを指示しなかった。


まあ、冒険者ですらない人間の武器やら装備やらを奪ったところで大した金にならないし、反抗してきたとしても相手の全力を真正面から叩き潰せばいいだけだもんな。更に言えば、真正面から叩き潰せば相手の心を折りやすいし、叩き潰した側も気持ちいいのだろう。


しかし、今回はその油断が命取りとなる。

俺は腰に巻いていたアイテム入れからあるモノを気づかれないように取り出し、素早くアゴ男の顔に投げつけた。


「ガッ、ブッ」


「どうした!」


素早く放たれたそれは見事にアゴ男の顔にヒットし、その声を聞いたムキ男はこちらを振り返る。その瞬間にムキ男の顔に向かって、ソレをもう一つ投げつける。


「ガッッ、なんだこれ!」


こちらも見事にムキ男の顔に命中した。


俺が投げたのは簡単に言ってしまえば水風船だ。勿論、ただの水風船ではないが。

どちらの水風船も命中した瞬間に割れ、中身の液体がチンピラ達の顔にかかる。


「顔が痛ぇぇぇぇ!なんだこれぇ!臭いもキツ...、ウェェェェ!!」


「なんだよこレッ!?顔の傷に液体が染み込んデ...、ウェェェ!!」


その水風船の中身は、家畜のフンと唐辛子に似た植物であるビスルの実の粉末をよく混ぜ合わせた液体で、非常に刺激性と匂いが強い。ヌレタ村では肥料として家畜のフンを使っていたし、ビスルの実は近所のおじさんが普通に栽培していた。

これは凶悪なものが作れるのではないかと思いつき、開発されたのがこの特製水風船だ。


この凶悪な液体を包むものを探すのは苦労したが、これにはガラスを使用している。

ガラスはこの世界では珍しいものではなくむしろ一般的で、ポーション等を入れる容器としてよく用いられている。ガラス自体はヌレタ村でも流通していて、簡単に手に入れることができた。

そして火魔法と風魔法を用いて出来るだけ薄くなるよう加工し、形状も球状にしてその中に液体を入れたというわけだ。これにより、持ち運びの問題と匂いの問題が同時に解決したのである。

そしてこれ、分かると思うけどめちゃくちゃ危ない。


本来はダンジョンで逃走するときの為に対モンスター用作ったもので、決して対人間用に用いるものではない。


人間に使えば下手したら失明などの大怪我を負うし、運が良くても当たった箇所は血だらけになるだろう。 更にその傷にガラスの中の液体が染み込んで……想像すらしたくない。

正直あまり使いたくなかったが、致し方ない。


こいつらはカツアゲの常習犯だろうし、一回痛い目見ておいた方がいい。俺は悶え苦しんでいる2人を放って、鞄を取り返しその場を後にした。


これで俺は無一文の危機から脱することができるし、今の現場を誰かに見られていたとしても、俺はアイテムのおかげでチンピラ達から逃げることが出来た少年としか思われないだろう。すべてが穏便に収まる解決手段だ。

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