第13話 甘いものは別腹

「わ、凄い人」


 混雑を避けるためにランチの時間を外してフードコートへ行ったが席のほとんどが埋まってるくらいに混雑していた。


「二手に分かれて席を探して確保しよう」


「うん、わかった」


 なんとか席を確保しフードコート内の店を二人で見て回る。


「夏菜は何が食べたい?」


「どうしようかなぁ……フードコートって中々決められないよね」


 中華、焼き肉、海鮮、そば、うどん、ファーストフード等々……なんでも揃っていて、決められないのは俺も同感だ。


「色々と見て回って悩むのがまた楽しいんだけどね」


「それよく分かる! 友達と来た時もあーだこーだ言いながら決めるの楽しいんだよね。私は色々と目移りしちゃって決められないから、おにーさんが食べたいのを二つ選んで二人で分け合うっていうのはどうかな?」


「夏菜はそれでいいのか?」


「私は決められないしむしろそっちの方がいい」


「それじゃあ遠慮なく決めさせて貰おうかな……あ、夏菜が苦手な食べ物ってある?」


「私は好き嫌いは無いから何選んでも大丈夫だよ」


 何を選んでもいいと言われても、肉に肉って訳にもいかないので中華とうどんに決めた。


「じゃあ、俺は中華で定食を買ってくるから、夏菜は讃岐うどんのお店で好きなうどんと天ぷらを適当に見繕ってきて」


 夏菜にお金を渡し自分も中華の店に向かう。


 俺が注文したのはラーメンとチャーハンのセットと油淋鶏ユーリンチーの単品だ。餃子にしようと思ったけど夏菜が臭いを気にするかもしれないので止めた。


 注文した料理と取り皿を受け取り席に戻ると、先に戻っていた夏菜が料理を前に座っていた。


「おにーさん遅い! うどん伸びちゃうよ」


「ごめんごめん」


「おにーさんはラーメンとチャーハンと……油淋鶏?」


「餃子にしようと思ったんだけど、臭いが気になるかもしれないしこっちにした」


「初めてのデートで餃子の臭いを気にするのは嫌ですからね。ちゃんと考えて気を利かせてくれてるのでおにーさんには合格点をあげましょう」


「お嬢さま、合格点を頂けて光栄です」


「うむ、くるしゅうない」


 ここでも夏菜はご機嫌でノリが良い。


「こんな事やってると冷めちゃうからさっさと食べようか」


「はーい頂きます! でもさ……炭水化物ばっかりだね。太っちゃう」


 夏菜が野菜の天ぷらを何点か買ってきているが、炒飯、ラーメン、うどんと炭水化物ばかりだった。


「確かに……」


「その代わり今日の夕飯には野菜たっぷりの料理を作ってあげます」


 あ、そうだった……今日は夕飯を作りに部屋に来るんだっけ。そう意識してしまうと途端に緊張してくる。


「おにーさん、あーん」


 夏菜が油淋鶏を箸でつまみ俺の口元に差し出してきた。

 これは食えってこと?


「夏菜さん? これは?」


「あーん」


 夏菜は無言の圧力でこれを食えと言っていた。


「は、はい、いただきます……」


 俺は戸惑いながらも夏菜に差し出された油淋鶏をそのまま手を使わず食べた。うわ……なんだか恥ずかしい。


「美味しい?」


「う、うん。美味しいよ」


「やった!」


 夏菜は自分で作った料理では無いのに無邪気に満面の笑みを浮かべ喜んでいる。


「一回あーんっていうやつをやってみたかったんだ。今度はおにーさんが私にあーんして」


 なんと俺にも夏菜にあーんをしろと⁉︎ 周囲の客の目が気になるが……特に注目されたりしている様子は無い。カップルなら普通の事だろうからそれほど気にする事ではないのかな? まあ俺たちはカップルではないんだけど。


「夏菜、あ、あーん……」


 俺は同じく油淋鶏を箸でつまみ夏菜の口元に差し出した。


「いただきます!」


 そう言って夏菜はその可愛らしい口でパクッと一口で食べ切った。


「うん! おにーさんの愛情が詰まってて美味しい!」


 特別愛情を込めたつもりは無いのだが……。

 それにしても夏菜は平然としているようだがこの行為は非常に恥ずかしい。これは経験の差なのだろうか? 夏菜に恋人がいて慣れてるから? そう考えてしまうと嫉妬のような気持ちが湧き上がってくる。


「おにーさんなんか難しい顔してる。どうかしたの?」


 どうやら嫉妬のような感情が顔に出てしまったいたようだ。気を付けないと場の空気を悪くしてしまう。


「い、いや、なんでもないよ。この天ぷらも美味しいよ」


 俺は誤魔化すように話題を逸らした。

 余計な事は考えずに今この時間を楽しもう。夏菜で笑顔でいてもらえれば俺はそれで満足なのだから。



「ふぅ……お腹いっぱいだね。後は食後のデザートだね」


 これだけ食べたのに夏菜は食後のデザートがご所望のようだ。


「まだ食べるの?」


「食後にはデザートは欠かせないでしょ? 甘いものは別腹」


「そうだな、俺もコーヒー飲みたいしそこのカフェへ買いにいこうか」


 フードコート内に併設されているカフェでコーヒーとミルクティと適当な菓子パンを購入して席に戻った。


「そういえば何で甘いものは別腹なんだろう? 少しくらいお腹いっぱいでも不思議と食べれちゃうんだよね」


 夏菜の疑問はもっともだがネットか何かでその原理を読んだ事がある。


「聞いた話だけど甘いものとか好きな物を食べようと意識すると胃が広がるらしいよ。だから胃にスペースができて食べられるって話だよ」


「へぇ……ちゃんと科学的な根拠みたいなのがあるんだね」


 そんな蘊蓄うんちくを語りながら食後のデザートを堪能し、ソラマチを出て向かいのホームセンターへと向かった。

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