第10話 スカイツリーデート②
カウンターで受付を済ませた俺たちはエレベーター待ちの列に並んでいる。
「本当にお金はいいの?」
夏菜の分のチケット料金を彼女が払おうとしたので俺は断った。
「俺は社会人だし払うのは当然だよ。今日は全部払うから夏菜は気にしなくていいから」
昼間に働いて夜学校に通っている学生に払わせるわけにはいかない。いつも夏菜に癒して貰っているお礼にせめてデート代くらいは払いたい。
「それはさすがに悪いよ。私も少しは払うから」
「俺はいつも夏菜に助けて貰ってるし凄く感謝してる。そのお返しだと思ってくれればいいよ」
夏菜も全部払って貰うのは嫌なようだが、俺は素直に感謝の気持ちを伝えた。
「……分かった。でも、私はおにーさんに大した事してないよ?」
夏菜は渋々だが納得してくれたみたいだが、俺がどれだけ助けられているか彼女は理解していないようだ。
「そんな事ないよ。仕事で疲れてる時に夏菜が声を掛けてくれて本当に助かってる」
夏菜に出会ってなければ今でも自分は夜の橋の上のベンチで俯き、一人で
でも夏菜に出会ってからは前向きに生きていく事ができている。
「それじゃあさ……今日、調理器具を買ったら食材を買って帰ろ? 私が今日の夕飯を作ってあげる」
「え⁉︎ 今なんて……?」
「だから、夕飯を作ってあげるから一緒に食べよ?」
「どこで?」
「おにーさんの部屋以外のどこで作るの?」
ちょっと待て……夏菜が部屋に来てご飯を作るだと⁉︎ それは凄く嬉しい申し出だけど俺の部屋にJKを連れ込んでしまっていいのか?
「えーっと……」
「おにーさん、私を連れ込んで大丈夫なのかとか悩んでるんでしょう?」
夏菜に俺の葛藤はお見通しのようだった。
「まあ、そうなんだけど……」
「私はもう十八歳で子供じゃないし大丈夫って前にも言ったでしょう? それとも部屋で私をいきなり押し倒したりするの?」
「いやいや! そんな事しないよ」
「なら、細かい事は気にせず私をおにーさんの部屋に招待してください」
「それじゃあ……夕飯作って貰えるか?」
「おにーさん……なんかプロポーズされてるような気持ちになってきました」
そう言って夏菜は下から俺の顔を覗き込んできた。
俺は夏菜の言葉に気の利いた返しができず彼女の顔を無言で見つめた。
「あの……前進んでます」
二人見つめ合って周囲の状況を把握していなかった俺たちは、エレベーター待ちの列が進んでいる事に気付かず後ろの客から指摘されてしまう。
「す、すいません」
俺たちは慌てて進んだ列の先まで詰めた。
「なんか私たちバカップルみたいだね」
夏菜が嬉しそうにクスりと笑った。そんな彼女を見ていると、こういうのも悪くないなと俺も思えてくるから不思議だ。
「はは、ホントだな。なんとなくバカップルの気持ちも分かったよ」
次からはバカップルの行動も温い目で見守ってあげられる心の余裕が生まれた気がする。
「あ、エレベーター来たみたいだよ」
到着したエレベーターの扉が開いた。
「うわぁ……キレイ……これって夜の桜だよね」
エレベーターのかご室には春の夜をイメージした桜の
「ホント綺麗だな……季節により意匠が変わるみたいだ」
周囲の客からも感嘆の声や溜息が聞こえてくる。
全ての客が乗り終えエレベーターは静かに上昇を始めた。
「このエレベーター分速600メートルで展望まで50秒らしいよ」
事前に調べた情報を夏菜に披露する。
「おにーさん、分速で言われても分からないよ。時速だと何キロなの?」
まあ、確かに分速で言われてもピンとこないよな。
「えーっと……1分で600メートルだから60倍すると36000メートル……時速36キロだな」
「それって速いの?」
夏菜には時速に直してもピンとこないようだった。車の運転とかをしない限り時速に対する感覚は分からないのかもしれない。
「だいたい原付のスクーターの制限速度くらいだ。そう考えるとかなり早いと思うよ」
「ふーん……スクーターで走って展望まで50秒以上って結構遠いよね」
スクーターでスカイツリーの展望まで時速30km/hで走る姿を想像する。それでも1分近く掛かるって事は結構な高さだなと改めて思った。
エレベーターは速度を感じさせない静かさで上昇を続けた。
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タイトルを変更しました。
『仕事に疲れてベンチに座っていた時に声を掛けてきたJKの押しが凄いのですが、知らないうちに何かフラグを立てていたのかもしれない』
これからもよろしくお願いします。
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