第10話 新旧世代対抗作文合戦

乾橘は企んでいた。

受験も終わった、新中一と受験作文をこの春から習いはじめている新小四を闘わせたら、どんな結果になるかと。

そして、授業前の新中一のクラスに乗り込み、ホワイトボードの右斜め角に小さな文字で書きはじめた。

「今この春、最もあなたのあたまに過ぎっていることについて、200字もしくは400字でできるだけくわしく書きなさい。もちろん、受験が終わって一箇月も経てば、書けなくなっているのは知っています。嘘だと思ったら、やってごらんなさい。信じられないくらい、書けなくなっていますから。あれほど、一年間、嫌というほど書いたのに。少なくとも、100本くらいの作文を。けれど、習慣とはそんなものです。書かなくなったら、あっという間に書けなくなる。ただ、いくらなんでも、まだこの春から作文を書きはじめた新小五の輩なんかには負けないだろうと信じていますが、それでも実際にやってみないとわからないと私の疑問が湧き、こんな企画を考えてしまいました。なんだかんだ言ってやらずに逃げるのもありです。ただ、それは、あきらかに逃げとみなします。今回は、あえて、今年度、受験現役の新小六との闘いは用意しませんでした。それは、新中一のあなたがたのプライドを汚さないためとの配慮からです。なぜって?もはや、あきらかに現役の受験生には勝てないと判断しているからです。やはり、受験生引退をした学年に、もう一度、現役の受験生をぶつけるのは、心苦しいからです。よって、ひとつ、ランクの下がる相手を用意しました。さぁ、どこまで健闘するか、楽しみです。ウフフフフ。」

もう、書いている途中から乾橘は背後で、笑いと野次の渦が湧き起こっているのを感じていた。

「せんせー!マジですかー!」

「もう、作文なんか、書きたくねぇーよっ!」

ひさしぶりに、この学年から活気溢れる声が聞こえてきた。

特に、残念な結果だった男子からの大声な野次。

ある意味、頼もしかった。

「じゃ、そういうことで!来週までに!授業がはじまるまでにできそうな生徒は速攻で書いて、おれの机の上に置いて置くように!受験前のキミらなら、20分もあれば書けたはず(笑)んじゃ、授業、ガンバレ!」

そう言いながら、ふり返った乾橘に笑顔と罵声で答える面々。

「本当は、もう少し、お前らを教えていたかったんだよなぁ」

そうつぶやく心を押し殺して、担当クラスの新小五教室へと向かう乾橘であった。


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