第3話 浄化
―――
「前髪が目にかかってるぞ!今すぐ切れ!何だ、その顔は!俺の言う事が聞けないのか!!」
石山先生の元に行くと、さっきよりもヒートアップしている。私は不安げに隣の志月を見た。
「思ったよりヤバい事になってるな……よし、取り敢えず時間を止めるか。」
「時間を止める?」
「ここにいる他の連中に悪魔を退治するところを見せないようにな。DEVIL HUNTERは秘密の任務だし、騒ぎになると面倒だから。」
「そうだよね、皆ビックリしちゃうもんね。」
「そういう事。」
志月はこっちを見て少し苦笑すると、ペンダントを片手で握りながら目を瞑った。
「時よ、止まれ!」
瞬間、その場にいた皆の動きがピタッと止まる。驚いている私を他所に志月は続けて呪文を唱えた。
「
咄嗟に石山先生の様子を見る。が、何の変化も起きなかった。時間が止まった事に一瞬驚いていたけど、志月の方をゆっくりと振り向くとニヤリと笑った。
『お前がやったのか?ふん、見る限りただの小僧だが魔力はそれなりにあるらしいな。』
「先生の声じゃない……」
「あぁ、取り憑いた悪魔の声だ。」
先生からしゃがれた気持ちの悪い声がして、体が震える。声まで変わるくらい先生の体が悪魔で侵されているという事なんだろう。私は心底恐くなって、志月の背中に隠れた。
『しかしこの俺をどうにか出来る力は無さそうだな。それにそこにいる女。お前からは何の匂いも感じない。ただの人間を連れている奴に、俺を倒せる訳がない。』
突然その赤い目に射抜かれて足が竦む。ぎゅっと目の前にあった志月の肩を掴んだ。
「さぁ、それはどうかな。やってみなきゃわかんねぇよ。」
志月が笑った気配がする。でも声は少し震えていて、志月もいっぱいいっぱいなのかも知れないと思った。
「……封印する事が出来ねぇなら、もうあの方法しかないか。でもそうなると石山の無事は約束できない。」
「えっ!そんな……」
志月がボソッと呟く。私は身を乗り出した。
「石山先生は厳しくていつも不機嫌で不遜で生徒からの評判も悪いけど、だからってこの世から消えちゃっていい訳ないよ。授業はちゃんとわかりやすいし良いとこだって探せばきっとあるんだから!」
「ふはっ!お前それ褒めてんの?」
「え……?」
志月が振り向く。何かを決意したような、吹っ切れたような顔をしていた。
「いいか。お前はただ念じればいい。そのネックレスを握ってな。」
「念じる?」
「石山が無事に帰ってくる事を。それを俺が汲み取ってあいつを浄化する。」
「汲み取るって……どういう事?」
「親父が言ってたんだ。パートナー同士は波長を合わせて意思疎通が出来るって。まぁ、いわゆるテレパシーっつうやつだ。」
「テレパシー!?」
「まだ二日目だけど、ここで尻込みしてる暇はねぇ。出来るか出来ねぇかはやってみねぇとわかんないからな!」
志月は力強くそう宣言すると私の手を取った。そしてもう片方の手で自分のペンダントを握る。私は戸惑いながらも、ネックレスを握って目を瞑った。
石山先生……どうか無事に帰ってきて!お願いだから!!
「穢れし悪魔よ。今すぐその体から離れ、永遠の眠りにつけ。
『ぐっ……』
悪魔の顔が苦痛に歪む。だけどまだ完全には効いてないようで、しばらくすると不敵な笑みでこっちに近づいてきた。
「き、来た!」
「大丈夫だ。俺を信じろ。」
「うん。」
繋いだ手に力が入る。志月を見るとこめかみから一筋の汗が流れて落ちた。強気な事を言っているけどきっと限界が近いのだろう。
私はまだ何も出来ないけど祈る事なら出来る。さっきよりも心を込めて石山先生が無事に生きて帰ってくることを念じた。
「これで決まりだ!
『ふっ……その程度の力では俺は倒せっ……うぐ……』
「お前は一つ間違えてる。こいつはただの人間じゃないぜ。今はまだ未完成だけど、すげぇ力を秘めてんだからな!」
『馬鹿な……ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ!!』
悪魔の顔色が見る見るうちに青くなって、体全体が段々透けていく。断末魔の悲鳴を上げながらのたうち回った。
「由希!一緒に唱えるぞ。」
「う、うん。」
「「
『ぐわぁぁぁぁぁ~~!!』
派手な音を立てて悪魔がその場に倒れる。次の瞬間、白い煙のようなものが石山先生の体から出てきて宙に消えた。
「石山先生!」
先生に駆け寄る。すぐに脈を確認したらちゃんと動いていてホッと溜め息を吐いた。
「生きてるみたいだな……」
「あんたこそ大丈夫なの?顔、青白いよ。」
「どうって事ねぇよ。あんまり使った事ない呪文使ったから、いつもより体力が削られただけだ。心配すんな。」
「心配すんなって言われても……」
「いいから。お前は石山を保健室に連れて行け。俺は止まった時間を元に戻すから。」
「うん……わかった。」
志月の事は気になったけど心配するなって言われちゃ何も言えないよね。取り敢えず石山先生を起こす事にした。
「先生?大丈夫ですか?先生!」
先生は廊下にうつ伏せに倒れたまま起きない。私は焦って、何回も体を揺さぶった。
「先生!先生!」
「……んあ?あ、何だ。成沢か……俺、どうしてこんな所に寝てるんだ?」
「忘れたんですか?先生、足を滑らせて転んだんですよ。とにかく保健室へ行きましょう。ね?」
「あ、あぁ……」
先生を何とか立たせると保健室の方へ向かう。その時になって時間が元に戻った事に気づいて志月を見た。
「サンキューな。」
「っ……」
不意打ちの笑顔に何故かドキンと心臓が鳴る。慌てて首を横に振った。
いやいや、別にときめいた訳じゃないから!滅多に見ない志月の笑顔が珍しかっただけで……
って、誰に言い訳してんだか……
「わ、私は別に何も……ただ必死で祈ってただけで。頑張ったのは志月だし……」
「お世辞だ、バーカ。」
「なっ!」
志月は鼻で笑うと、くるっと振り向いて廊下を歩いて行った。
「何なの、もう……」
小さく呟くと、半分呆けている石山先生を連れて保健室へと向かった。
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます