真宵蛾の冬

ohne Warum|

第1話

部屋を蛾が飛んでいる。足元の高さをひらひらと。入り口のカーテンに糸で作られた繭が綺麗に残っている。きっと外から迷い込んだのだろうと思う。窓の向こうへ出してしまいたいが、なかなか触れることができない。なにも食べずに、あと何日間過ごせるのだろうか。何も飲まずに。


蛾を捕まえては冷凍して、標本のようなものを作っていた時期がある。何匹もの蛾の命を奪ったことに申し訳なさが残る。そんなことを思い出すこともないだろう。いま考えたいのは、「夜の人工森を飛び回る、マッチ売りの少女を“無限地獄“から解放するには」。路頭に迷う弱者の話をしている。

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