戦闘力0でパーティの雑用係だった僕はユニークジョブを得て迷宮都市で成り上がる

響恭也

深淵の決戦

 その迷宮はいつから在ったのか誰も知らない。無数の冒険者がその深淵に挑んで、その多くは二度と還らなかった。


 そしてとあるパーティが最深部に達した。そこには一つの扉があった。

 鍵穴もなく仕掛けも見つからない。どうあっても開かない扉を前に彼らは帰還を決断した。そして幾多のパーティが扉の解錠を試みては失敗していたが、数か月後、その扉が開いた。

 そのパーティにはユニークジョブの持ち主が参加しており、扉を開く条件が確定した瞬間だった。



「さあ、行こうか。深淵の彼方へ」

「「おう!!」」


 ダンジョンの階層そのものが全く遮蔽物のないまっさらな地形。果ての見えない暗闇にモンスターたちがひしめき合っている。

 入り口となる通路には合計10のパーティ。60人の冒険者と、サポートメンバーが待機していた。


「レイド構築!」

 冒険者クリスが手をかざすとそこから光が伸びて各パーティのリーダーをつないでいく。これでクリスを通じて各パーティの意思疎通が出いるようになるはずだ。


「みんな、準備は良いか?」

「おう!」

 クリスの隣にいた騎士が槍を掲げて気勢を上げる。それに続くようにほかのパーティからも喚声が上がった。


「よし、タンク部隊は前進だ。敵の第一波を引き付けろ!」

「「おう!」」


 重装の冒険者が雄たけびを上げてフロアに踏み込んだ。すると、通路に最も近いところにいたオーガが叫喚の声をあげて迫ってきた。


「貴様の相手は俺だ!」

 ガンと盾と剣を叩きつけ、敵の注意を引く。魔物たちは金属音を嫌う。けたたましい音を立てる重騎士たちに魔物たちが群がっていく。


「オーダー! 全力防御!」

 クリスがタンク役のパーティに向けて指さして叫ぶと、光がそのパーティを包み込む。


「俺に続け! アイアン・フォートレス!」

 スクトゥムのスパイクを地面に突きたてると、盾に通された魔力が隣の戦士の田ッとともに光の要塞が顕現した。


「グルアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 オーガの拳を受けても小ゆるぎもしない要塞に守られ、弓や杖を手にした冒険者たちが一斉にその技を解き放った。


「舞え! 煉獄の鳥。フレイム・バード!」

「降り注げ、驟雨のごとく! メテオフォール!」

 巨大な火球から無数の火の鳥が羽ばたき、頭上に向けて放たれた矢は雨あられと降り注ぐ。


「第二陣、進め!」

 クリスの指揮に従って、大剣持ちのパーティが前に出る。

 

「右も左も敵だらけだぜ! 者ども、参る!」

「おう! サダに続け!」

 サダと呼ばれた戦士は東方から伝わるカタナを振るってゴブリンどもを斬りたてる。

「集え、焦熱の輝きよ!」

 刀の切っ先から火炎魔法を放つ。サムライは攻撃魔法も使いこなす攻撃のスペシャリストだ。


「崩れたあの一点を突くんだ。オーダー! 全力で攻撃だ!」

 クリスがオーダー(命令)を告げると、槍を構えたパーティが一斉に突き進む。

「応!」

「いっくぞおおおおおおおおおおおおおおおあああああああ!!」

 魔力で赤く光る槍を突進する勢いに任せて投擲する。槍の穂先から魔力弾が乱れ飛び、コボルトたちの胸を貫く。


「セタンタ、出過ぎるなよ!」

「誰に言ってんだフェル!」

「ふん、山を斬り裂くわが剣、受けてみるがいい! 雷鳴閃」

 剣先からほとばしる雷は目の前にいたオークを蒸発させた。赤と青の鎧をまとった二人は駆け抜けざまに魔物の群れを蹴散らしていく。

「だあああああああ、アホ弟子ども! 前に出過ぎんなっつてんだろうがあああああああああああ!!」

 槍を手に女戦士が前に出る。囲まれつつある二人に援護するため手に持ったルーンを刻んだ宝石を指ではじくと一つはオーガの足を凍り付かせて砕き、疾風の刃はサイクロプスの眼球を斬り裂いた。


「おっと」「いけねえ」

 二人の戦士は振り向きざま、オーガとサイクロプスを真っ二つにする。

 前線は徐々に押し上げられ、入り口付近にサポートメンバーによるキャンプが作られた。


「我が主よ。戦況は好調に推移しているぞ」

「ああ、リン。君がそばにいてくれるから僕は安心して指揮が執れる」

「我が主には毛筋一つ傷つけさせはしない。安心するがいい」

「うん、頼むよ。じゃあ本隊を押し上げるぞ。続け!」

 クリスが足を踏み出そうとするのに先駆けてレイピアを持った剣士が前に出る。

「ふん、お前に何かあったら俺の武名に傷がつく」

「そんなことはないと思うけどね。頼りにしてるよ」

「ああ、借りは必ず返すさ」


 戦場を満たすおびただしい数の魔物たちは次々と討たれ魔素に還る。カラカラと乾いた音を立てて魔石が地面に落ち、サポートメンバーたちがそれを拾い集める。


「アンデッドが出たぞ!」

 ゾンビやスケルトンと言った魔物はさほど厄介ではない。弱点がはっきりしているので対処がしやすい。

 レイピアを構えた剣士はスケルトンの群れに向けてレイピアの柄から魔法を放つ。そのまま魔力をまとわせた刃を振るってゾンビどもを斬り伏せる。

 背を守るように飛び出したモンクの少女は聖魔法を拳に付与してアンデッドを薙ぎ払った。


「先生、頼みます」

「ああ、報酬分は働くよ」

 神父の衣服をまとった男がすっとクリスの傍を離れ、聖句を唱える。


「塵は塵に、灰は灰に還れ」

 手にしたビンの水を含むと霧状に噴きだす。闇に紛れていたゴーストの類が青白い炎の中で崩れていく。

 アンデッドの中で最も厄介なのが実体を持たない霊体だ。通常の武器ではダメージを与えられず、神聖魔法で浄化するのが最も早い。


 アンデッドの攻勢をしのいで態勢を整えた。前衛を入れ替えてポーションで体力を回復させる。


「よし、いまだ。オーダー! 全軍突撃!」

「「「おおおおおおおおおおおう!!!」」」

「リン、君も手柄を立ててくると良い」

「先ほども言ったはずだ。私の武勲は主の無事であると。それに……」

「伝令! 背後よりゴブリン100!」

「ほら、思ったとおりだ」

「たしかに。君も変わったねえ」

「なにがだ?」

「こんなふうに周りが見えるようになったってことかな。とりあえずウォーミングアップから始めようか。起動(アウェイクン)!」

 クリスは手に持ったクリスタルに魔力を流し込む。光が走り、召喚陣が虚空に描かれる。


「マスター、命令を」

 鋼鉄の身体を持つ魔法人形(オートマタ)が現れた。

「オーダー、あのゴブリンどもをせん滅せよ!」

「了承、攻撃に移ります」

 オートマタは残像を残して突進し、ゴブリンの群れを消滅させた。


「よし、前線を切り開け!」

「了承」

 最前線ではボスと思われる双頭のミノタウロスが巨大な斧を振るう。


「グラアアアアアアアアアア!」

 雄たけびは物理的な圧力をもって前衛の重戦士達を押し戻す。そこに参戦したオートマタが手を一閃するとミノタウロスの首が飛んだ。

 大きなダメージを負ったミノタウロスは目に見えて攻撃が鈍る。


 青い鎧の戦士、セタンタが斧をかいくぐってその胸に槍を突きたて、ミノタウロスは魔素に還った。


 大迷宮31層目、クリスの横穴の攻略はこうして始まったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る