第15話 挙式前

ウィルベアトとアルウィンが立ち去ってから数十分後、部屋の扉が叩かれる。


「レイチェル様、エディング殿下がいらっしゃいました」


外から声をかけられて中に入ってもらうように頼む。

バンッと音を立てて勢いよく開かれた扉。

姿を現したのは白い軍服姿のエディだった。急いで来たのか少しだけ息が乱れている。普段鍛えている彼が息を乱すなど一体どれだけ急いで来たのか私には想像出来そうにない。


「エディ?」


ぴたりと止まったまま声を発しないエディに首を傾げる。

もしかして似合っていないのかしら。

個人的には似合っていると思ったけど、それは自己評価に過ぎない。彼から見たら思っていた感じと違ったのかもしれないと不安になる。


「どうでしょうか…?」


普段なら感想を催促したりしない。

沈黙に耐えきれなくなり発した言葉にエディングは一瞬申し訳なさそうにする。


「すまない。よく似合っている、綺麗だ」


照れ臭そうに紡がれた言葉に頰が熱くなる。

綺麗。

お世辞かもしれないが似合っている、綺麗だと言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。


「その、誰にも見せたくないくらい綺麗だ」


続け様に言われた言葉に胸が高鳴った。


「あ、ありがとうございます。エディもよく似合っていまよ」


流石は軍人と言ったところだ。軍服姿が様になっている。誰が見ても格好良いと思うだろう。


「レイはこういう格好が好きなのか?」


両手を広げながら尋ねてくるエディングは浮かれた雰囲気を隠しきれていない。

大柄で怖そうな見た目をしているわりに可愛いところが多い人だ。

噂通りの人じゃなくて良かったわ。

人は見かけによらないとウィノラでよく知っていたのに。くだらない噂に振り回され、勝手に冷酷な人だと決めつけていた自分が情けない。

後でウィルベアトとアルウィンに噂通りの人じゃなかったと教えてあげようと思う。


「好きか嫌いかで聞かれたら好きですね。エディに相応しい服だと思いますので」


素直に言ってみると大きな腕に抱き締められた。

綺麗に整えてもらった化粧や髪型、ドレスを崩さないように優しく抱き締めてくれる彼に顔が熱くなる。

周りに立っていた侍女達は私に気遣っているのか見ないようにしていた。それにしても全員の顔色が悪いのは何故だろうか。ウィノラだけは恨みがましそうに見つめているけど止めはしないらしい。


「これからは四六時中この格好でいよう」

「流石にそれは無理ですよ」

「レイが望むならずっと着ているぞ」


腕の中で見上げたエディングは満面の笑み。

このままでは本当にそうなってしまうかもしれない。

流石にどうかと思うので諫める事にする。


「い、色々な格好をしたエディも見てみたいので…」

「そうか?」

「はい。エディは背が高く格好良いのでどんな服でも似合いますよ」


言われ慣れているだろうにどういうわけか面食らったような表情をするエディング。

なにか不味い事でも言ったのかしら。

自分が間違っているのかそうじゃないのか殿方を褒める経験が浅い私には分からなかった。


「わ、私は格好良いのか?」

「え?はい、勿論」


自覚ないの?

美形に囲まれた生活を送っているから自覚が出来ていないのかもしれない。首を傾げているとエディングは額に口付けを落としてくる。離れた時に嬉しそうな顔が視界に映った。


「レイのような素敵な奥さんをもらえて、私は果報者だな」


そう言って一度強めに抱き締めたエディングは身体を離して大きな手を差し伸べてきた。


「さぁ、行こうか」

「はい」


上機嫌で歩くエディングに連れられて式場に向かった。

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