第14話 カヴァリヤ家のこと - 3 -
フェリックスが連れてきてくれたのは、玉座の間を真っ直ぐ進んだ先のバルコニーだった。
眼下には、城の敷地があり先ほど散策した花園もあるし、私の部屋から見える噴水も端に見えた。城の門の先には川があり、橋の先にはカヴァリヤの城下町が扇状に広がっていた。同じような色の屋根が連なり、美しかった。
「美しいだろう、カヴァリヤの街は」
「うん、綺麗」
整っているとか、色合いがとか、そういうこともあるが、街の中の木々や街中を流れる水路が自然と配置されて、遠目ではあるけれど静かな生活感を感じる街並みは安心感に包まれて、美しさを増しているようだった。
「サラ、急な知らせが入った。外すから先に菓子でも食べててくれ」
フェリックスは、そう言ってバルコニーから室内に戻り部屋を出ていった。
バルコニーに用意されたテーブルと、その上にお茶とお菓子が綺麗にセッティングされていた。素朴そうな焼き菓子が美味しそうだった。
「美味しそうだね、クッキー」
「わ! シアラ!?」
シアラは突然背後から現れた。
「ただいま」
シアラはそう言って、クッキーを一つ齧った。
「フェルデナントと城下町に行ってきたんでしょ? どうだった?」
「良い街だったよ。橋を渡ってすぐの区画でバザールみたいにいろんな店が出てた。私も知らない野菜や、カヴァリヤで取れた宝石とか薬草なんかも売ってた」
「楽しそう! いいな、私も行ってみたかった……」
「街は案内できないけど、城内なら案内できるよ。まだ見てないところあるでしょ?」
「見たいみたい! 案内してほしい、シアラ!」
***
「今日のフェリックス様、お美しかった〜 少しアンニュイな感じなの。いつもキラキラ〜って笑顔でおはようって言ってくださるのに、今日は微笑むようなおはようだったの。やっぱりね笑顔でいて欲しい、って思うじゃない? 推しには。てか、主だし。でもいろんな顔もみたいって思っちゃう。欲張りかなぁ……あぁでも素敵だったぁ」
シアラが連れてきてくれたのは、城の裏の兵士たちが生活する場所で家とその奥には訓練場のようなものが見えた。
コソコソしていた訳ではないけれど、野菜の下拵えをしている3人の女性たちの背後から話を聞いてしまっている状態だ。
「ミノアは、本当にフェリックス様命だよね、分かるけどさぁ。でも私はやっぱりカイ様。美しさで言ったら、断然カイ様じゃない?」
ミノアと呼ばれた女性に、そう応えたのは長い髪をゆったりと結った女性だった。
「美しさで言ったらフェリックス様でしょー、カイ様はあの美貌に男らしさがあるのが良いって言ってたじゃない」
ミノアは短い髪を、ぐいと手の甲でかきあげて言った。
「「「それな」」」
息がぴったりだ。
「カイ様って彫刻みたいなの。それなのにね、私がじゃがいもの籠を運んでる時に、手伝いましょうってひょいって!ひょい!って籠を持ってくださってね、もうね、男。銀髪のキラキラがなかったら、男前な感じだと思うんだよね〜あー好き」
「モニカはいいよねぇ推しと触れ合えて」
「それを言ったら、ユリアなんてフェルデナント様推しじゃない」
「……結局、身近なキュンよ。でもね、ただのイケメンじゃないのよ、フェルデナント様は。馬に乗る姿は王子と言っても過言ではないし、訓練する姿は男の勇姿そのもの。加えてね、女心を見透かしていらっしゃるような甘い笑顔と声と気遣い。あの人、絶対うまいこと遊んでたわと思いつつ引っかかりたくなるのよ。だって仕方ないじゃない、顔が良いんだもの……!!!」
ずっと無言を貫いていたユリアと呼ばれた女性も、最後には2人と同様に語り出し、3人は大きく熱いため息をついた。幸せそうだった。
「シアラ、あれは……何の話をしているの」
なぜか小声になってシアラに尋ねた。
「わからない……フェリックス、カイ、フェルデナントの誰が1番良いか話しているようだけど、決して争いにならないのが不思議ね……」
3人はまた話始めた。
「もう戻りましょう、サラ」
「……うん」
カヴァリヤ城は、予言書以外にも毎日の話題にことかかないようだった。
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