第13話 カヴァリヤ城 - 6 -
思ったより、元気かもしれない。
サラはそう思いながら、すでに好奇心のまま城内を中庭に向かって歩いていた。心なしか足も軽い。
中庭へは、階段を二つ降りてすぐに辿り着くことができた。
回廊に囲われた庭にある噴水は、部屋で見るより小さく、それよりも花壇の整然さに驚いた。まるで一つの絵のように、花の色が並べられている。サラは噴水の端に腰掛け、日の光で見たらもっと鮮やかだろうと花壇を眺めた。
「また脱走? 」
「わぁ! 王様!」
「部屋から見えたよ、ここにいるの。あまり勝手に出歩かないでください」
フェリックスは襟元を緩めているが、先ほどの軍服のまま出てきたようだ。サラの隣に座る。
「王様こそ、追いかけてこないでください。脱走したところで、路頭に迷うのが落ちですから」
「フェリックスでいいよ、国民以外から王様なんて呼ばれたことない。それより、サラ」
いきなり自分の名前を呼ばれ、サラはふっと顔を上げ隣のフェリックスを見る。不意にフェリックスの右手がサラの座るすぐ脇、左手のそばに置かれた。
「さっき家に帰れるか聞いたけど、俺は帰りたいとサラの口から聞いていない」
「あ、」
フェリックスの青い瞳がじっと注がれる。
「帰りたくないのであれば、ここにいれば良い。ちゃんと居場所はある」
触れてもいないのに、フェリックスの重さを感じ、左手はフェリックスの体温を伝えた。
サラはフェリックスの確信した瞳から、そしてゆっくり諭すのような声色から、このままフェリックスのいう居場所で生活するのが幸せなのではないかと思った。それは不意に、自然と、思考に落ちてきた。
「はーい、そこまで! フェリックス陛下」
声と同時に現れたのは、茶色の髪の使用人の女の子だった。
「シアラだな! いつからそこにいた!」
「業務上の機密事項です。救世主様、陛下からくらいは自分で身を守ってください」
「身を……って、それよりあなたお湯を沸かしてくれた女の子? なんか雰囲気がさっきと違う気がする……」
初めて会ったときにサラが感じた瞳の強さは、今、このフェリックスをあしらう彼女にこそ合っている。
「ごめんなさい、救世主様。私はシアラ。さっきは使用人のフリをしていました」
「シアラ、勝手な行動は慎め!」
「はいはい、それはこっちのセリフです、救世主様がどんな方か少し気になっただけ。それにしてもフェリックス陛下に迫られて、ぽけっとしてるなんて、さすがね」
シアラはサラではなく、フェリックスの方に目をやってそう言った。
「私、迫られてた!? うそっ!?」
と、今更サラは顔を赤くした。気づかなかったってよ、とシアラは楽しそうにむくれたフェリックスの肩を叩く。
「さ、救世主様。もう部屋に戻りましょう。お散歩はここまでです」
サラは突然現れたシアラに連れられて部屋へ戻った。また明日、と言って別れる。回り出した歯車に感情が置き去りのままだと感じながら、それでも思考は眠りに引き摺り込まれて長かった一日が過ぎようとしている。
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