第4話 始まり - 4 -
目を覚ましたのが広大な森の中であり、1人で出ることが困難であることをフェルデナントは簡潔に説明した。
森を抜ければ街に着くので、詳しい説明はそこでということだ。サラが承諾すると同時に草むらからは10人前後の兵士と思われる格好の男たちが現れ、二言三言をフェルデナントと交わし、それからは皆無言で列をなして歩き始めた。サラは広大だという森をまさか何時間も歩かされるのでは、と先ほどとは打って変わって現実的な心配をし始めた。
「救世主様」
ちょうど列の真ん中あたりを歩くサラの隣、肩の斜め上から声が聞こえた。サラは、ああ自分のことかと見上げると、仮にも救世主様に対して軽すぎやしないかと思うほどの爽やかな笑顔で見つめられた。
改めてみると、整ってはいるが口元や目尻からはよく笑顔を作る人だと分かるような親しみやすさを感じる。25、6歳と言ったところだろうかサラの脳裏に”作り笑い”という単語が浮かぶ。先ほどまで兵士に指示をしていた軍人顔を思い出しながら、サラは彼の顔をマジマジと見上げた。
「救世主様、何か私の顔についてますか?」
「あ、違うの、なんか若そうなのにさっきは指示とか出してて凄いなぁと思いまして」
「はは、若くて不安ですか? 命に変えても救世主様をお守りしますから、安心してください」
カシャと、フェルデナントの剣に鍔が擦れる音がした。
フェルデナントばかりでなく、周りの兵士の剣に急に重力感が増したように感じる。命なんて、これまで何回意識してきただろうか。
「あ、あの、私はなんていう街に向かっているんですか?」
「正確には城下町です。カヴァリヤ城の」
「城? えーと、ちょっと待ってください。ここ何県? そういえば、さっきは王国がどうとかって……」
「カヴァリヤ王国です。県とは? 地区を表す単位ですか? ここ一帯は明確には区分されていない地域ですが、カヴァリヤ領土内に間違いありません」
少なくとも、サラが向かう先には商店街も、部活帰りの学生で溢れる駅前のハンバーガーショップも存在しないだろう。そして仮に場所が把握できたところで、なぜ住宅街から森の中へ瞬間移動したのかという解決には至らない。
「じゃ、救世主って何ですか?」
「……うーん、詳しくは城でお話しできると思いますが、要するに、あなたは私たちカヴァリヤ国が待ち望んでいた方なんですよ」
「はぁ……」
結局、何一つ解決しなかった。
城では全てがはっきりするのだろうか、とサラは歩みを進める足元に視線を落とした。ローファーが泥だらけだ。
「自覚……ないですか? 」
「え?」
これまでとはトーンの違う、少し抑えた低い声にサラは思わず聞き返した。
「予言書の救世主の御自覚はありませんか?」
今度ははっきりと、だが音量は抑えた声だった。
「そんな予言書知らないし、救世主の話なんてもっと知らない」
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