第2話 始まり - 2 -
濃い緑とむせかえる程の土の匂いに囲まれた森の中、木漏れ日を集めるかのようにぽっかりと開けたところで少女は目を覚ました。
黒い瞳の焦点がゆっくりと世界を認識する。
その顔はまだ夢の途中のように表情がない。段々と視界が明確になり、嗅覚が草の匂いと土の匂いに反応し、どうやら外で目を覚ましたことが分かった。
「な、何、ここ……どこ」
ガバッと起き上がると、手に触れたのは微かに湿った土と草。
たしか学校の帰りに友達と別れたところで、帰路は住宅地のはず……と思わず身なりを確認するも見慣れた制服である。紺のブレザーも、気に入っている赤のチェックのスカートも、ハイソックスも、誰が見ても完璧な女子高生だ。怪我をした形跡もないので立ち上がってみた。
「あ、カバン……」
左腕に父親からプレゼントされた腕時計が残されている以外は、持ち物だけが一切ない。
置かれている状況は分かったが、なんの解決にもならず呆然としていると、周囲の草むらの奥で人の気配がした。助けを求めるべきか、いやそもそも助けを求めるべき状況なのか、頭の中で言葉にならない謎が飛び交い結局息をつめたまま、全てがまた停止した。
草むらから現れたのは1人の男だった。
草木を分けてやってきたのだろう、開けたこの場所に一歩足を踏み入れ十分な光を浴び、眩しそうに目を細めた。その掘りの深い目鼻立ちから、会話が絶望的であることを悟ったと同時に、少女は身の安全すら危ぶんだ。彼が着ているのは軍服だ。その張り詰めた肩と胸に、そして軍靴の泥と腰に刺した剣の重力感に圧倒される。
彼は一瞬驚いたような顔をし、すぐにその場で片膝を立てる格好で屈み頭を下げた。
「救世主様、お迎えにあがりました」
「あ、あなた日本語が喋れるんですか? 」
流暢な日本語に安堵しながらも、見た目とのギャップに違和感を覚える。
「日本語……かどうか存じませんが、救世主様の話される言語は私どもと同じようです」
頭を下げたまま、男は話続けた。
「私はフェルデナント。カヴァリヤ王国の騎士です。救世主様をお迎えにあがりました」
「あ、えと、私はサラ。あの気づいたらこんなとこにいて、多分人違いされていると思います。私フツーの高校生だし……」
それともドラマの撮影で私からかわれてる?あ、撮影現場に無断で入っちゃった?一度開いた口が次から次へと疑問にならない言葉を吐き、手作りの軍服の割にはよくできてますね、私の制服は本物ですけど、と言ったところで、ようやくフェルデナントと名乗った男は立ち上がった。
「救世主様、人違いではありません。その長い美しい漆黒の髪が証です」
微笑み、今度はサラに向かって眩しそうに目を細めた。軍人らしいさっぱりと短い茶色い髪が柔らかく揺れ、サラは対照的な自分の長い黒髪に触れた。
「私は救世主なんかじゃありません」
キッパリと言い、踵を返そうとしたところで自分の置かれている状況を思い出した。
「……ここ、どこですか……?」
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