第4話 漆黒の髪色 - 1 -
カイの部屋の扉をノックすると、はい、と落ち着いた声が返ってきた。
「今、いい?」
「えぇ」
カイは机に向かい、なにやら難しげな本を読んでいた。部屋には本のほか必要最低限のものしか置かれていない。王の側近中の側近としてはあまりに簡素だ。
「シアラ様も、長旅でお疲れでしょう?」
そう言って丸いテーブルの横の椅子を指さした。
飲み物を、と言って席を立とうとするカイに、すぐ済むからと書き机を背にしているカイと向き合う。
「兵士の軽率な行動には、お詫び申します」
深々と頭を下げ、カイは言った。城内のことはやはり全て把握しているらしい。
「私のほうこそ、騒がしてしまってごめんなさい。……率直に言うけど、救世主をこれからどう扱うつもり?」
「そうですね、予言書によると何かを成し遂げて国を平和に導いてくれるとのことですが、具体的に成し遂げるべき事柄が現時点でない。少女の保護……という名目で様子を見ると言ったところでしょうか」
「でも国民は今日救世主が現れることを知っているでしょ?」
「えぇ。『苦難が起こった10年目3度目の新月の頃、異国より救世主が現れる』半信半疑ではあると思いますが。いずれにしろ国の情勢が安定している今日、必ずしも救世主を出現させる必要はありません」
淡々と、顔色一つ変えずにカイは説明した。
「国民の目に触れる予言の書に抜粋があるのはご存知でしょうか?」
知っていた。
救世主出現の日は書かれていたが、出現する場所を抜粋している。もちろん国が先に救世主を見つけるためであるが、その場所の抜粋により現れる日と異国人であると言うことだけが救世主の判断材料となる。
「出現場所の抜粋。万が一、救世主が現れなかった場合は遠い村からやってきた私が救世主となるために……でしょ?私達にすら秘密にされていた」
「そうです。われわれは、この日のための準備をずっと整えてきました。しかし、王は救世主が必要ない場合は予言書に沿う必要もない、と考えております」
フェリックス王は戦争で父親を亡くしている。その時、救世主はいなかった。
救世主が必要とされないかもしれない。予言書を所有する王がそう判断するのであれば、予言書通りに現れたサラの存在も隠され、サラの影である私もなかったことにしなければならない。サラのための姿も能力も。
「……分かった。それにしても、フェリックス王のこと若い王だとは聞いていたけど考えも持っているし、何よりカヴァリヤ国王代々の金髪碧眼は説得力があった」
カイは初めてにこりと笑った。
「容姿による説得力については、あなたも同じでしょう」
———その漆黒の髪
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