第3話 歌詠 - 3 -

 城からさらに城壁のそばまで行くと、ひらけた場所に出る。


「シ、シアラ様!」

 さきほどは申し訳ございませんでした!! と訓練場にいた数人が一斉に敬礼の姿勢をとった。若い部隊の中のさらに若い幾人かだ。

「やめて、あれは私が悪かったんだから」

「し、しかし……!」


 城に着いてから門番に王との謁見を頼んだが、許可してくれず仕方なく城内に侵入したところ彼らに見つかった。侵入者に有無を言わさず剣を抜き襲ってきた。あとから聞いた話ではフードから覗いた私の容姿が若い彼らには珍しく魔物か何かだと思ったらしい。


「もうやめろ、お前ら。誤解だったことははっきりしただろう、引きずるな。さっさと稽古に戻れ」

 襲ってきた彼らを撒きながら王の部屋のそばまで来たところで、フェルデナントに相対し事態は収束した。


「それにしても、シアラ。王の部屋に行くのに他に方法があっただろうに」

 おかげで部下を扱くいい機会になったけど、と続けた。

「うーん、そうなんだけどね。仕事柄、正攻法ってどうも苦手で……」


 城内警備にあたっていた彼らに見つかった、というより案内してもらったと言うほうが正しい。対象を警備するときには、侵入者を対象から遠ざけるように向かってくる。つまりそれを利用しただけなのだが、まさか丸腰の私に剣を抜いてくるとは思わず、大ごとになってしまった。何人かには気絶してもらったが、結局フェルデナントに会うまでには私は十数人を引き連れた格好で走っていた。


「事情を聞いた兵士たちは、シアラの走りっぷりになるほどと言っていたよ。マントから出る飛び道具に壁も走れそうな身軽な動き」

「そっちこそ、事情が分かった時の事態収拾の迅速は感服です」

 実際、フェルデナントに遭遇して囲まれた後の事の運びは見事だった。情報伝達は完璧に行き届き、王に対しては何事もなかったかのように私を紹介してくれた。戦闘部隊としての力はまだまだだが、基本のしっかりしている良い部隊だと思う。


 フェルデナントが声を張り上げ、兵士たちの剣の相手を始めた。


 フェルデナントと相対したとき、彼は剣を抜かなかった。だけど私の足は止まった。襲ってくる相手を抜くことはできるが、立ち止った相手を抜くことは難しい。こちらから攻撃をしかけることもできたかもしれないが、彼はそれを許さなかった。もともと戦闘員でない私が敵と一対一で向き合うことは滅多にないが、隙がない、気迫、絶対的な力の差、とはこのことだろうとその時確信した。彼は、強い。


 誤解が解け、正式に王との謁見が許可された。カヴァリヤ城の王は若かった。戦後の状況を聞いてはいたが、てっきり名前だけの王位で執権は別の人が握っているのかと思っていた。

 祖母からの手紙を渡し、救世主の影として行動を共にしたいと言うと、真っすぐ目を見て、頼むと言った。ややぶっきらぼうな仕草をする王だが、その一言はカヴァリヤ国の王として威厳ある声色だった。


 詳細はカイが聞く、と言って背の高い無表情の男が前へ出た。

 彼はフェリックス王の教育係として仕え、王の即位後は側近として、また城内を取り仕切る監督者としてカヴァリヤに従事しているそうだ。国の歴史や予言書にも詳しいと言っていた。

 会いに行ってみようか。

 紹介された後、すぐに救世主を迎えに行く準備で慌ただしく、まだあまり話せていない。フェルデナントを大声で呼び、城を指さして戻ることを伝えるとフェルデナントは手を振って答えてくれた。

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