第12話 リューデス村 - 7 -

 土の湿った匂いと、焚火の残り香の中で目を覚ました。


 野宿は体が休まらないけれど、新鮮な朝の匂いが好きだから森の中で眠るのは嫌いではない。


「おはよう、シアラ」


 フェルデナントは防具をつけず、身軽な服に剣を差した格好でやってきた。


「おはよう」


 水と、どこからか見つけてきた木の実を受け取った。


「昨日はあれから任せてしまって、サラは大丈夫だった?」

「うん、話もできて良かったよ」

 そうか、と安心したような顔で笑った。


 サラがうーんと伸びをして、目を覚ました。


「あ、フェルデナント!シアラもおはよう!」

「おはようサラ、良く眠れましたか?」

「ん——……熟睡したけど、体が痛い……」


「サラ、川まで顔洗いにいきましょうか」


 城から拝借した石鹸を懐から取り出す。

 バラの形をした手に収まる大きさは、可愛らしくて良い匂いだし、がらにもなく好きだ。


「あ、それ!お城で渡してくれたのでしょ?それ石鹸じゃなかったよ。私も間違って泡だてようとしたのに全然ダメだった!」

「二人とも、それは蝋燭です。火を付けるとバラの香りがして、女性が風呂に入るときに浮かべたりするそうです」

「え、そうなの?私の村じゃ、これ典型的な石鹸の形だよ。どうみたって石鹸」 


 乾燥させたバラの花びらを練りこんだ石鹸は、私の村では伝統的な手工芸の一つで、型が同じなんじゃないのと思うほどそっくりだった。私の村の人が見たら誰でも間違えるに違いない。


「えぇ、古くからあるもので、この形で蝋燭が登場するのは数百年前になる。他国にも輸出しているから、むしろ蝋燭の典型的な形と言っても過言ではないかと」


 私の村のようなところで、見目重視のろうそくなんて広がる訳がないから、昔誰かがバラの形の蝋燭を持ち帰って、それを習って石鹸を作り始めのかもしれない。

 まぁ由来はどうでもよいけれど、なんだか面白い。


「そっかぁ、じゃあシアラと私だけかもね、石鹸だと思って泡だてるの。良かったね川で恥ずかしい思いするとこだった!」

 二人して川で蝋燭を擦っている姿はちょっと滑稽かもしれない。

「こうやって見ると、二人は姉妹のようですね。まるで子供の頃をともに過ごしたようだ」

 フェルデナントは目を細めながら、からかうように言った。

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